Sunday, December 2, 2012

1リットルの涙 - 第 10 話


『ラブレター』

亜也(沢尻エリカ)は、滑らかな発音が難しくなる構音障害が進行していた。
亜也の診察をした担当医の水野(藤木直人)は、潮香(薬師丸ひろ子)と
瑞生(陣内孝則)に説明する。
「現在の症状を考えると、亜也さんが養護学校を卒業した後の
 進学や就職は・・・やはり難しいと思います。
 無理に社会に出ないで、在宅で、ご家族に見守られながら、
 リハビリに励むことを考えたらいかがでしょうか。」
「確かに、その方が俺たちも安心です。」と瑞生。
「ええ・・・。」戸惑いながら潮香が答える。

=卒業証書授与式=
「とうとう、卒業の、時がきた。
 病気になる前に、思い描いていたものとは、違う卒業だった。」

「卒業おめでとう!」
担任のまどか(浜丘麻矢)やボランティアの高野(東根作寿英)が
亜也に花束を渡す。
亜也が、潮香と瑞生が二人にお礼を言う。
「2年間、本当によく頑張ったね。
 もし、辛くなったり、苦しくなったら、
 ここでの生活、思い出してね。」とまどか。
「亜也ちゃんがいなくなると寂しくなるよ。
 亜也ちゃんの言葉には、いつも元気を貰っていたんです。
 生徒たちだけじゃなくて、僕達大人もです。」
掲示板に貼られた亜也の詩を見つめる。


『苦しみの向こう 池内亜也
 人はみな苦しいのです
 でもきっと苦しみの後で
 その満足感が与えられる
 スポーツだって勉強だって試練だって
 人生だってみんなみんなそう
 苦しんで苦しみ抜けば
 その向こうには
 虹色の幸せが待っている
 それはきっと宝になるはず
 そう信じよう』

『一歩一歩 池内亜也
 自分という存在が消えそうになったら
 自分の個性を生かせる所を探そう
 これからゆっくりじっくりと
 あせるな
 よくばるな
 あきらめるな
 みんな一歩ずつ
 歩いてるんだから』

「どんな小さなことでもいいから、
 人の役に立ちたいと思っていた。」

常南大学医学部の試験会場。
遥斗はストラップのイルカを見つめている。
「時間です。では始めて下さい。」
試験官の合図に、遥斗は真剣なまなざしで試験に挑む。

「18歳。
 進学や就職。
 みんなそれぞれの道へ進んでいく。
 けれど私は・・・」

「これで・・・居場所、なくなっちゃった・・・かな・・・。」
正門を出て校舎を振り返った亜也は、そう呟いた。

それに気付いた潮香は、亜也のために部屋を用意し、家族皆で温かく迎え入れた。
1階に移した亜也の部屋。
カーテンは亜湖(成海璃子)が、布団は弘樹(真田佑馬)が、ぬいぐるみは
理加(三好杏依)が選んだ。
「はい、はい、はい、はい!このカレンダーは、俺が選んだ!」
瑞生が手を挙げて発言する。
壁に、『冬の後には必ず暖かい春が来る』と書かれた2008年3月の、細長い
カレンダーがかけてある。
「カレンダーだけ浮いてるよね。」と亜湖。
「え、どこが!?」
「みんな亜也が帰ってくるのをすごく楽しみにしていたのよ。」
潮香たちが笑顔で亜也を見つめる。
「気に入った?
 これからは、家族のみんながそばにいるし、
 亜也は何も心配しなくていいのよ。」
「そうだね。」
潮香の言葉に笑顔で答える亜也。

「みんなの気持ちは、素直に心に染みる。
 でもねお母さん。
 過ごしやすい場所が欲しいわけじゃないの。
 これから先、どう生きていくか。
 そのことを考えていたの。
 今の私は、ただみんなの世話になるばかり。
 足がフラつく。
 言葉が上手く話せない。
 それでも、自分の体だから、
 自分が諦めちゃいけないんだ。
 18歳。
 私にだって、私なりの未来があるはず。」

もう、2008年という設定なのですね。
養護学校を卒業して、居場所がなくなってしまったと悲しむ亜也は、
それでも家で、リハビリセンターで懸命にリハビリを繰り返します。
過ごしやすい場所が欲しいわけじゃない、という言葉が
今の自分の甘えた心に響いてきます。

そんなある日、池内家に、明和台東高校の卒業式を終えたばかりの
遥斗(錦戸亮)やまり(小出早織)、早希(松本華奈)ら、
かつてのクラスメートたちがやってくる。
遥斗は、常南大学医学部に合格していた。
まりたちも大学に進学し、春からは新しい生活が始まるのだという。
亜也は、まりたちの話を笑顔で聞いていたが、その表情はどこか寂しそうだった。
潮香や遥斗は、そんな亜也のようすが気になっていた。

学校が変わってしまっても、ちゃんと交流があったんですね。
良かった!でも、みんなの輝いた顔を見つめる亜也は寂しそう。
北海道に一緒に遊びに行こう、と早希やまりに声をかけられる亜也。
多分それは無理なことなのだろうけれど、潮香は笑顔で賛成します。
そのときの瑞生の複雑な表情。
遥斗は冷静にその場を笑顔で見守っていました。
そして亜也自身も、どこか諦めたような表情で・・・。
それでも、自分のことを今までのように誘ってくれて、
亜也は嬉しかったのかな。

=神経内科 動物実験室=
マウスを使っての実験。
水野は落胆した表情を浮かべる。

診察室でデータを入力。
薬の効果は表れていないようだった。
水野は思わず机に苛立ちをぶつける。

水野先生はこうして頑張っているのですね。
せめてドラマの最終回、明るい兆しを見せて終わってほしい・・・。

別の日。
リハビリのために常南大学医学部附属病院を訪れた亜也は、そこで遥斗に会う。
遥斗にキャンパスを案内してもらう亜也。
行き交う生徒は、車椅子の亜也をものめずらしそうに見て通り過ぎる。
遥斗の友達も、遥斗に声をかけるもののよそよそしい態度で行ってしまう。
そんな様子を敏感に感じ取る亜也。

同じ世代の若者の元気な姿。
楽しそうに並んで歩くカップルの姿。
「どうして、人間は、歩くのかな?」
「え?」
「人が、人らしく、ものを考えられるのは、
 もしかしたら、歩いている時なのかも。」
「そうかな。」
「だって、恋人同士も、歩きながら、将来のこと、
 語り合うでしょ?」
「・・・」
遥斗は何と答えていいのかわからなかった。

リハビリする姿を見つめる遥斗。そこへ水野がやって来た。
「君が医大生になるとはね。
 どうして医者になろうと思ったの?」
「・・・人の役に立つ仕事がしたくて。
 そんなの、うそ臭いって思ってたんですけど、
 あいつを見てたら・・・。」
「そうか・・・。
 僕もね、彼女を見ていると、自然と背筋が正される。
 俯いている暇はないんだって、前を向かされる。」
二人はそのまま亜也のことを見つめていた。

亜也を遥斗に任せて家庭訪問に行っていた潮香は、亜也を迎えに行く前に
一旦帰宅する。その際、机の上から落ちた亜也の日記を偶然見てしまう潮香。
そこには、
『お母さん、過ごしやすい居場所が欲しいわけじゃないの。
 これから先、どう生きていくか、そのことを考えていたの』
と記されていた。
「私・・・何にもわかってなかったのかもしれない・・・。」
潮香はそう呟く。

ショックを隠しながら、亜也を迎えに行く潮香。
「亜也、さあ、帰ろうか。」
「お母さん、私、入院したい。」
「え!?」
「先生、入院させてください。」
「どうしたの、急に。」
「リハビリしたいんです。
 週に2度、通うだけじゃなくって。
 このままじゃ、歩けなくなっちゃうかもしれない。
 自分の足で歩くこと、まだ諦めたくないんです。」

遥斗との会話で、
「人が、人らしく、ものを考えられるのは、
 もしかしたら、歩いている時なのかも。」
と語った亜也。
歩くことが出来なくなったとき、人らしくものを考えられなくなる。
そういう恐怖を感じていたんですね。
年配の方たちが多いリハビリセンターの中で懸命に努力し続ける亜也。
原作には、そんな亜也さんの姿に励まされ、勇気を貰った患者さんが
沢山いらしたそうです。

亜也の入院が決まる。
亜湖に付き添われて病室に入る亜也の表情。
この部屋って、まさか、優花ちゃん(松本梨菜)のお父さんが入院していた
部屋じゃないですよね!?

潮香は仕事をしながら、亜也がノートに綴っていた言葉が
頭から離れないでいた。
そんな潮香を、高野が訪ねていく。

まどかとの結婚の報告をする高野。
「ご家族で一緒にいらして下さい。
 それと、友達の麻生君も誘って。」
「ええ、是非!
 それでわざわざ?」
「いえ。実は僕、こういうところで働いていまして。」
高野が名刺を渡す。
『株式会社 文芸総合出版』
「僕が担当しているのは主に、難病の患者さんや、そのご家族を対象にした
 会報なんですが、各市の保険センターに置いてもらおうって、
 こうして回っています。
 この会報は、患者さん同志が少しでも、情報の交換が出来る様にと
 始めたものなんです。
 病気の悩みを、自分たちだけで抱え込んでしまうご家族は、
 多いですからね。」
『かけはし』と書かれた会報を差し出す。
「そうですね・・・。」
「それで、亜也さんに、お願いが。」
「亜也に?」
「もしよろしかったら、亜也さんが養護学校で書いていらした詩を、
 この会報に掲載させていただきたいんです。」
「ええ。それはきっと亜也も喜ぶと思います!」
潮香が嬉しそうにそう言い、会報を手に取った。

亜也の見舞いに来た遥斗は病院内で父・芳文(勝野洋)と会う。
立ち止まり見つめあう二人。
遥斗は父に会釈をし、そして亜也の部屋へと向った。

潮香が芳文に声をかける。
病院を出て並んで歩く二人。
「亜也さんのご様子はいかがですか?」
「ええ・・・。以前より、歩くことが、難しくなってきたみたいです。
 リハビリも一生懸命頑張っているんですが、とくにそれも・・・。」
「そうですか・・・。」
「人の役に立ちたい仕事をしたいと言っていたのに、
 日を追うごとに、人の助けが必要になって、
 思い悩んでいるようです。」

遥斗は亜也にお見舞いの花を渡す。
「綺麗。
 でも、病人に、鉢植え?」
「うん。これ、可愛かったから。」
そう言い微笑む遥斗。亜也も嬉しそうに微笑む。

「それでも、麻生君と過ごす時間は、唯一、あの子の心の支えに
 なっているようで。」
「いやあ、こちらこそ・・・
 亜也さんのお陰で、あいつは変わりました。
 目標を見つけて、前よりずっと楽しそうで。
 しかし、あいつはまだ子供です。
 まだ18歳です。
 挫折を味わったこともなければ、自分の限界も知りません。
 私は医者としてではなく、父親として、
 遥斗がお嬢さんと関わることは反対なんです。」
「・・・」
「いつか、現実の壁に当たったとき、
 息子は、お嬢さんに背中を向けてしまうのではないかと。
 そのとき、一番苦しむのは、一番傷つくのは、
 お嬢さんではないでしょうか。
 今の、この関係を続けることは、
 あの二人にとって、いいことだって、
 私にはどうしても思えないんです。」

「植物って、すごいね。
 雨が降っても、踏みつけられても、
 その場で、じーっと、耐えて、
 花、咲かせるんだよね。
 私も、そんな風に、強くなれたらな。」

鉢植えを持ってきた遥斗のメッセージをしっかりと受け止める亜也。
最初、鉢植えを持って病院に来た遥斗に、
この子ったら!と思ってしまった私。
でもそこには、遥斗の深い考えがありました。
歩けなくなれば、人間らしさを失ってしまうと怯える亜也に、
動けなくても美しく咲く花を見せたかったんですね。

そこへ潮香がやって来た。
「いつもありがとうね。」
潮香は遥斗に挨拶したあと、亜也にまどかと高野の結婚式の招待状を
見せる。
「まどか先生の、結婚式?」
「そう!頑張って、みんなに元気な姿、見せようね。」
亜也が嬉しそうに微笑む。
「麻生君も、良かったら一緒にって。」
「俺も行っていいんですか!?」
「でも忙しかったら、無理しなくても。」
「いえ、是非!
 タキシードでも着ていこうかな。」
遥斗の笑みに、亜也は少し寂しそうに微笑んだ。

病院の屋上で青空を見上げる亜也。
車椅子のレバーには、遥斗から貰ったイルカのストラップ。
亜也は、校内を歩く遥斗の姿を見つけ微笑む。
遥斗の、友人と語り合う笑顔に、亜也の笑顔は消えていく。

亜也はベッドから1人起き上がり、車椅子に乗ろうとした時に転んでしまう。

遥斗が亜也の病室を訪ねてきた。
「よ!
 ・・・どうした?」
亜也が床に座っている。
「来ないで・・・」
「大丈夫か?」遥斗が亜也に歩み寄る。
「来ないで!」
トイレに行こうと立ち上がった亜也は転んでしまい、
起き上がることが出来ず、間に合わなかったのだ。
「何で・・・。」悔しさに泣き出す亜也。

そこへ潮香と亜湖がやって来た。
「麻生君、ちょっと、出てって。」
「でも俺・・・」
「いいから今は、出ていって。お願い。」
潮香に言われたとおり、部屋を出ていく遥斗。

「大丈夫大丈夫。」
亜也を優しくさすりながら、潮香は亜湖にバケツを取ってくるよう言う。
「亜也。着替えよう。」
「いや・・・。」
「ね、亜也。
 これからは、方法を考えればいいだけよ。
 トイレに行きたくなってからだと間に合わない。
 だったら、時間を決めていけばいいんじゃない?
 ね、そうしよう!
 たとえば、3時間置きにいくとか。
 ほら、着替えないと、風邪ひくわよ。」
娘を抱きしめながら優しくそう言い、潮香は亜也を抱え起こした。

遥斗があの時すぐに部屋を出て行こうとしなかったのは、
ショックもあっただろうけど、医者という意識もあったのかな。
亜也を抱き起こす潮香を見ていてそう思いました。
心の支えである人に、失敗を見られてしまった亜也の気持ちを思うと
苦しいです。
原作では、自分から「時間を決めてトイレに行こう」と答えを見つけた
亜也さんです。

暫く廊下で呆然と立ち尽くしていた遥斗。
授業中も集中できずにいた。

亜也を着替えさせ、笑顔で床を拭く潮香。
亜也にわからないようにこっそり涙をこぼしていた。

消灯時間が過ぎても、亜也は暗い部屋の中、一点を見つめ・・・。
亜也は震えていた。

真っ暗な廊下、公衆電話にたどり着く亜也。
受話器をとり、カードを入れ、プッシュホンを押していく。
だが、手の震えでなかなか電話番号を押すことが出来ない。

そのとき潮香はなにやら胸騒ぎを覚え、電話を見つめる。
亜湖が心配そうに見つめる中、潮香は突然出かける準備を始める。
「ちょっと、病院に行ってくる。
 何だか亜也が心配で。」
「じゃあ、俺も行くよ。」と瑞生。
「やめときなよ。
 こんな時間に二人で行ったら、なんか大事みたいで、 
 亜也ネェ逆に気を使うじゃん。」
「そうか?」
「そうそう!お父さんと私はお留守番!」
亜湖の言葉に従う瑞生。

潮香が病室に行ってみると、亜也の姿がなかった。
慌てて病院内を探し回る潮香。
すると、亜也が公衆電話の置かれた台に顔を突っ伏していた。
「亜也!どうしたの、こんな時間に。
 風邪ひいちゃうでしょう。
 早く戻ろう。」
「お母さん、」
「どうしたの?」
「眠れなくって、目、閉じるのが、怖くって、
 家に電話かけたの。
 何度もしたの。
 お母さんの声が、聞きたかったから。
 でも、上手く押せなくって・・・」
涙をぽろぽろこぼす亜也を、優しく抱きしめる潮香。
「助けて・・・お母さん・・・
 なくなっちゃうよ・・・
 あたしに出来ること、一つも・・・なくなっちゃうよ・・・」
「行こう!」
潮香は涙をこらえ、亜也を病室に連れ帰る。
そして部屋の電気をつけ、病室の引き出しからノートを取り出して並べる。
「確かに、亜也は病気になって、
 一つ一つ、出来ないこと増えたよね。
 歩くことも、話すのも、難しい。
 お友達みたいに、大学も行けないし、
 就職も出来ない。
 でも、出来ること一つもなくなっちゃうの?
 本当にそう思うの?
 亜也、これ見て。
 これも、これも、これも。
 亜也が、毎日毎日綴ってきた日記。
 ぜーんぶ亜也が、一生懸命、ペン持って、
 一生懸命書いた言葉!
 同級生のお友達にも、健康な人にも出来ないこと、
 亜也は、ずーっとしてるじゃない!
 亜也には、亜也には、書くことがあるじゃない。
 違う?亜也・・・。
 そうでしょう?」
亜也が泣きながら母の手を取る。
亜也を抱きしめる潮香。

「私には、書くことが、ある!」
ノートに一生懸命言葉を綴る亜也。
車椅子のキーホルダーを見つめ・・・。

亜也はレポート用紙を取り出し、そこに文字を綴り出した。

まどかと高野の結婚式。
可愛らしいドレスを身に纏った亜也、車椅子で両親に付き添われ
参加する。
「先生、可愛い!」
「亜也ちゃん、よく来てくれたね。」
まどかが握手を求める。
亜也がその手を握り、
「しあわせに、なって、下さいね。」と微笑む。
「ありがとう。」

「良かったのか?あいつに連絡しなくて。」
瑞生が亜也に聞く。
「きっと、授業あるし、いいの!」
「そうか・・・。」
「よくねえよ!
 おいてけぼりにすんなよ。
 行くって言っただろ!」
「・・・本当に、着てきたんだ。タキシード。」
「アニキの借りたんだよ。」
「似合ってないよ。」
「うるせーよ。」
「ありがとね、麻生君。」潮香が言う。
「・・・おい、何なんだよ、その格好は!
 いいところのボンボンぶりやがってよ。
 俺と差、つけるつもりかー!?」
「ヤキモチ焼かないの、お父さん!」と潮香。
「すいません。」と遥斗。
「わかりゃ、いいんだよ・・・。」

二人が顔を合わすのは、あれ以来でしょうか。
どんな顔をして会ったらいいのかと、不安な気持ちでいっぱいだった
ことでしょう。
そんな不安を、吹き飛ばしてくれるような遥斗の第一声でした。

まどかがブーケトスをする。
亜也の膝に、まどかのブーケが飛んできた。
みんなが拍手を送る中、亜也は恥ずかしそうにブーケの花を手に取った。

結婚式会場を出る4人。
「じゃあ・・・俺らは、車を回してくるから。な、潮香。
 少しの間、亜也を頼むぞ。」
瑞生と潮香が亜也を遥斗に託す。

「素敵だったなー、花がいっぱいで。」
「そうだな。」
「・・・麻生君、これ。」
亜也がポケットから手紙を差し出す。
「何?・・・ん?」
「ラブレター。」亜也が微笑む。
「あ、そう。」
嬉しそうにポケットにしまう遥斗。
亜也の笑みが次第に消えていく。
そのとき教会の鐘が鳴り、二人が同時に振り返る。
亜也は視線を遥斗に戻し、悲しそうに見つめ・・・。
そして自然を外した。

両親と共に病院に戻った亜也は、急にむせ返り苦しみ出す。
水野が駆けつけ、吸引、点滴、ネブラーゼ、と処置を進めていく。

その頃遥斗は、鉄橋の上で亜也の手紙を広げていた。

『麻生君へ
 面と向っては素直に言えなそうだから、
 手紙を書きます。
 いつもそばにいてくれて、ありがとう。
 励ましてくれてありがとう
 自分の夢を見つけて、生き生きと輝いている麻生くんを見ると
 私も嬉しくなります。』

亜也が目を覚ますと、両親、水野が心配そうに覗き込んでいた。
「お母さん?先生、私・・・」
「軽い肺炎をおこしかけたんだ。
 でももう大丈夫。
 呼吸も落ち着いてきたし、このまま横になっていればいいから。」
「心配しなくていいのよ。」
「たいしたことねーからな!」

『色んなことを学んで、色んな人と出会って、
 あなたはこれからも、ずっとずっと生きていく。
 あなたの未来は、無限に広がっている。
 でも、私は違います。
 私に残された未来は、 
 なんとかして生きる、それだけ。
 たったそのことだけ。
 この差はどうしようもありません。
 毎日、自分と戦っています。
 悩んで、苦しんで・・・
 その気持ちを押さえ込むので、精一杯です。』

亜也の辛そうな様子を心配する潮香たち。
「亜也ちゃん?」「亜也、どうしたの?どこか痛い?」
「・・・麻生君に、手紙、書いたの。」


『正直に言います。
 麻生くんといると、つらいです
 あんなこともしたい、こんなこともしたい
 もしも健康だったら出来るのにと、思ってしまうんです。
 麻生くんといると、叶わない大きな夢を描いてしまうんです。
 もちろん、麻生君のせいじゃありません。
 でも、羨ましくて、情けなくて、
 どうしても、今の自分が、みじめになってしまうんです。
 そんなんじゃ、前を向いて生きていけないから、
 いろいろしてくれて、ありがとう。
 こんな私のこと、好きって言ってくれて、ありがとう。
 何も返せないで、ごめんなさい。
 もう、会えません。』

亜也の手紙を読む遥斗の瞳から涙がこぼれ落ちる。
封筒の中には、あのストラップも一緒に入れられていた。

「どうして、亜也。
 大事なもの、自分から諦めるのは・・・」
「・・・お母さん?
 お父さん?
 先生?
 私、結婚出来る?」
誰も亜也の質問に答えることが出来ない。
「・・・そうだよね。」亜也が悲しく微笑む。
「亜也・・・。」
「でも、それでも、いつか、
 いつかがきたら、お花いっぱいに囲まれて、
 眠り続けたい。」
涙をこぼしながら微笑む亜也。
瑞生はたまらず、病室を飛び出し、廊下で声を立てずに号泣した。

家に戻った遥斗を父親が出迎える。
「遥斗。どうした?」
遥斗が手に持つ封筒に気付く父。
「あなたの言うことは、いつも、正しいです。」
遥斗は泣きはらした目でそう言った。

病院のベッドで号泣する亜也。
潮香は娘を励ますように手を握ろうとするが、亜也はそれを突っぱね、
声を上げて泣き続けた。

「過去を思い出すと、涙が出てきて困る。」

『現実があまりにも残酷で きびしすぎて
 夢さえ与えてくれない
 将来を想像すると また別の涙が流れる』

『わたしはどこへ行けばいい?
 何も答えてくれないけど
 書けば気持ちだけでも晴れてくる
 求めているんだよ 救いの手を
 だけど届かないし 逢えもしない
 ただ暗闇に向かって
 吠えるわたしの声が響くだけ』

「1リットルの涙」より


『わたしは何のために生きているの』
『しゃべりたくない
 話したくない
 言語障害がこわい
 家にTELした・・』
『動けない
 悔しい。』
『生きていていいのか?
 おまえがいなくなっても何一つ
 残りはしない。なのに・・・
 愛ー
 ただ それにすがって生きている自分の
 なんとかなしいことよ』
エンドロールで流れる自筆のノートに、そう綴られていました。

何一つ残りはしない、そうノートに気持ちをぶつける亜也さん。
あなたは沢山のかけがえのない言葉を残してくれました。

次週、最終回。
きっと将来遥斗は、効果のある新薬を開発してくれることでしょう。
どうか亜也に間に合いますように・・・。

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