Sunday, December 2, 2012

1リットルの涙 - 第 1 話



『ある青春の始まり』

『特別じゃない
 ただ特別な病気に選ばれてしまった
 少女の記録ー』

「人間の脳には、140億の神経細胞と、
 その10倍もの、神経細胞を指示する細胞があります。
 それらの神経細胞は、中枢神経と末梢神経に分けられ、
 そのうち中枢神経は、大脳、間脳、小脳、脳幹、脊髄に分かれています。
 その中で、身体を自由に、スムーズに動かす働きをしているのが、
 小脳、脳幹、脊髄です。」

神経内科の医師・水野宏(藤木直人)はそう説明しながら、
池内潮香(薬師丸ひろ子)に娘の脳の画像と正常な脳の画像を見比べさせる。
「お嬢さんの病気は、何らかの理由で小脳が萎縮し、
 そこに存在するさまざまな神経細胞が、次第に失われていくというものです。
 つまり、壊れていくと理解してください。」
「壊れる?」消え入りそうな声で聞き返す潮香。

「最初はほとんど自覚症状はありませんが、
 まず、歩行時にふらつきが見られるようになります。」

雨の中、傘を差して登校する亜矢が何もないところで突然転ぶ。

「転倒も多くなり、自分と物の距離が上手く取れなくなったり。」

下駄箱で、床に置いたカバンの取ってを掴もうとした亜也。
だが掴んだ位置はカバンの20センチほど上だった。

「あるいは、上手く字が書けなくなったり。」

亜也のノートをめくる潮香。
『病気は、どうして私を選んだのだろう。』
たどたどしい字でそう綴られていた。
自由に動かない手で必死に綴った亜也の気持ち。

「言葉を、上手く話せなくなります。」

『お母さん、私は、何の為に生きていくの?』
ノートに綴られる亜也の気持ち。

「症状は、ゆっくりですが、確実に進行します。」

『将来を、想像すると、また、別の涙が、流れる。
 お母さん、わたし結婚できる?』

=2005年3月=
亜也は、高校受験を間近に控えた中学3年生。
明るく頼れる母・潮香と豆腐店を営む人情派の父・瑞生(陣内孝則)、
そして3人の弟妹たち、亜湖(成海璃子)、弘樹(真田佑馬)、理加(三好杏依)に
囲まれて、平凡ながらも賑やかで楽しい毎日を送っていた。

早朝、まだ外が暗いうちに店のシャッターを開ける亜也。
5時6分。タイムカードを押し、エプロンをつけると、父・瑞生に続き、
弟の弘樹と、まだ小さい理加も店の手伝いにやって来た。

今日は亜也の大切な入試日。
瑞生は、今朝3時まで受験勉強していたという亜也を気遣い、店の手伝いは
いいと言うが、潮香はいつもと同じペースを崩させない。
瑞生は家の手伝いよりも、単語の一つでも覚えるか、少しでも寝ることを
進めるが、
「ここまで来たら、ジタバタしないで腹くくる!」と亜也。
「そういうこと!」と潮香。

次女の亜湖がまだ店にいないことに気付いた瑞生が部屋に呼びにいく。
「ほら!いつまで寝てるんだよ。
 はい、起きて~!はい、お仕事お仕事!」
「ウザイ!」
「はい、亜湖ちゃーん、起きましょうね。お仕事ですよ~!」
「ウザイ!」
「起きろって言ってんだ!体重攻め!!」

「毎朝毎朝、これじゃ虐待だよ、虐待!」
文句を言いながら亜湖が降りてきた。
「働かざる者食うべからず!文句言わない!」と瑞生。
「文句じゃないわよ。当然の主張!
 お小遣い上げてよ、お小遣い!
 毎日1時間働いて、お小遣いはたったの3000円だよ!
 時給100円だよ!あり得ない!」
「ぜいたく言わないの。」亜也が亜湖に言う。
「優等生!」亜湖がふくれる。

弘樹は自分は小遣いが1000円だから、と時給に換算し始める。
計算に手惑い計算機を叩く弘樹。
「俺、掛け算苦手なんだよな。」
「割り算!!」家族が突っ込む。
「弘樹、お前は池内豆腐店の跡取りなんだぞ。
 そんな計算も出来なくて、商売が出来ると思ってるのか?おまえ!」

潮香が亜也に、豆腐を一丁頂戴、と声をかける。
「はーい!」と答え、水の中から豆腐を手ですくう亜也。
ボールに移し変えようとした時、豆腐が床に落ちる。
「もったいねー!」と弘樹。
「落ちちゃったー。」理加の言葉に家族が焦る。
「今日はね、そういう言葉、使わないの。」
言ってるそばから、木べらを落とした瑞生が
「あ、落ちちゃった・・・あっ!!使っちゃったよ!!」

亜湖、弘樹に続き、亜也も家を飛び出していく。
「亜也、忘れ物!受験票!!
 まったくそそっかしいんだから~。」潮香が慌てて亜也に声をかける。
「全く誰に似んだか。」瑞貴が笑う。
試験会場へ再び走り出そうとする亜也に、瑞貴は用意していたお守りを渡す。
「ありがとう!」包みから出してみると『商売繁盛』のお守りだった!
「さすが親子ね。」潮香が笑う。
「ご利益は一緒だから持ってけ。」とごまかす瑞生。
「行ってきまーす!」
家族に見送られ、亜也は元気に走り出した。

にぎやかで明るい、素敵な家族です。
亜湖は亜也に、コンプレックスを持っているみたいですね。
久々に見る成海璃子ちゃん、『瑠璃の島』のイメージと少しかぶりますが
亜湖がどう変わっていくのかも楽しみ。
何気ない日常のシーンでしたが、既に亜也に病気の症状が見え初めて
いるんですね。



名門進学校・明和台東高校の受験の日、亜也は、潮香たちに見送られ、
張り切って家を出た。
が、うっかりバスの中で寝過ごしてしまった彼女は、
試験会場へと慌てて走り出し、転んでしまう。
急いで荷物を拾い集め、再び走り出す亜也。

停めておいた自転車の鍵を開けながら、試験会場から聞こえてくる
鐘の音に振り返る麻生遥斗(錦戸亮)。

試験会場では、問題が配られ始める。
亜湖の親友・まり(小出早織)が心配そうに空席を見つめる。

「ジ・エンドってことだよ。」
遥斗が受験票を破ろうとした時、後ろで自転車が倒れる音がした。
次々とドミノ倒しとなっていく自転車。
亜也が転んでぶつかったのだ。
「痛い・・・」亜也は膝を怪我してしまう。
「勘弁してよ・・・。」遥斗が呟く。
「ごめんなさい。」
二人は自転車を元に戻し始めた。

会場では試験がスタート。

雨が降ってきた。
自転車を元に戻した亜也は、自分の荷物を拾い集める。
亜也が手にする受験票を見た遥斗は、見過ごすことが出来ず
「乗れよ。」
といい、後ろに亜也を乗せ試験会場へ。

保健室で怪我の手当てをしてもらう亜也。
雨で濡れた体を拭いた遥斗は、
「じゃあ、失礼します。」と言い帰ろうとする。
その時、保健室に教師がやって来た。
「良かったな!二人にはここで受験してもらうことになったから。」
「いいんですか!?」亜也の表情が輝く。
「ただし、他の受験生との公平を保つ為に、1時間目の終了時間は
 予定通りとするけど、いいね。」
「はい!ありがとうございます!」
「いや、俺は、あの・・・」戸惑う遥斗。
「入試に遅れてまで人を助けるなんて、なかなか出来ることじゃないぞ。」
「いや・・・別に・・・。」美談にされてしまい戸惑う遥斗。
明和台東高校受験を止め、エスケープしようとしていた遥斗だが、
この一件のせいで、結局試験を受ける羽目になっていた。

瑞生は娘の受験を気にしながら店の客の応対。
女性客(円城寺あや)の名門校を受けるなんてたいしたものだ、という言葉に
瑞生も誇らしげ。
おつりの間違えを客に突っ込まれ、計算機を叩く瑞生。
「トンビが鷹を生んだっていうのかしら。」客が笑う。

朝日奈市保健センターで保健師として働く潮香。
職員や、町の人々から、「池内さん」「池内さん」と頼られる存在だ。
担当の家庭の様子を電話や窓口で伺ったり、家庭訪問をしたりと、
忙しい日々を送っていた。

試験を終え、まりと校内を歩きながらきょろきょろ辺りを見渡す亜也。
遥斗の姿を見つけ、今朝のお礼を言うが、
「お前のせいで俺まで受けちゃったじゃねーか!」と怒られた。

夕食時。その日起こったことを家族に話す亜也。
「男と自転車に二人乗り!?」と瑞生。
「じゃ、遅刻したの?」と潮香。
「うん・・・」
「男ってのは、どこのどいつなんだよ!」
「亜也ネェなら平気でしょ!
 時間がなくてもスラスラ解けるんじゃないの?」と亜湖。
「親にも言えないような男なのか?」
「でも半分ぐらいしか書けなかったんだよね・・・。」
瑞生の心配は、家族みんなに無視される。
「でもその、自転車乗せてくれた子に感謝しなくちゃね。」と潮香。
「うん!」
「感謝!?えぇ!?
 その考え方、俺よくわかんない。
 嫁入り前の娘が、男と自転車に二人乗りしたんだぞ!?」
「嫁入り前がまずいんじゃなくて、二人乗りがまずいんじゃないの?」
弘樹に言われ、とまどう瑞生。
「二人とも受かっているといいわね。」
「落ちてたらどうしよう・・・。」
「大丈夫だよ、そんなもん。
 あ、落ちた。・・・!!
 あ、これ、滑っちゃ、あ、滑ったって言っちゃった!!」
失言を繰り返す瑞生だった。

東高の合格発表日、亜也と親友のまりは、そろって合格する。
抱き合って喜ぶ二人に声をかけてきたのは、亜也が中学時代から憧れる、
バスケ部の先輩・河本祐二(松山ケンイチ)だ。
「二人とも受かって良かったな、おめでとう。」
「ありがとうございます!」
河本は一緒にいたバスケ部の武田を二人に紹介する。
「池内、高校でもやるだろ?バスケ。」
「はい!」
「良かった。」

二人が去ったあと、まこは亜也を冷やかした。
「中1からだっけ?片思いしてるの。
 いい加減、告ったら?」
「ムリムリ!絶対無理!」
「じゃあ、私が代わりに亜也の気持ち、伝えてあげようか?」
「ダメ!そんなの絶対だめ!」
亜也の片思いがじれったくてしかたないまこだった。

その日の夜、亜也の合格祝いが行われる。
「良くやった。さすが俺の娘だ。」
「お父さん、東高じゃないじゃん。」亜湖は不機嫌そう。
「亜也姉ちゃん、おめでとう。」理加が飴玉3個、亜也にプレゼントする。
「亜也ネェ、これやるよ!」弘樹は『ワンピース』のフィギュアをプレゼント。
嬉しそうに受け取る亜也に、
「ありがとうなんてよく言えるね。
 そんなの貰って嬉しいはずないじゃん。」
「嬉しいよ。だってヒロの宝物だもん。」
「さっすが、優等生。」
「またすぐそういうこと言う。」潮香がたしなめる。
「亜湖ネェは何プレゼントするんだよー。」弘樹が聞く。
「するわけないじゃん!
 自分が欲しい服も買えないのに。」
亜湖の視線から逃げる瑞生。
「大体さ、みんなで東高、東高って大騒ぎしちゃって、バカみたい。」

「これは、お父さんからのお祝いだ。ジャーン!」
瑞生が亜也に渡したものは、AYAと名前の彫られたお手製腕時計。
お世辞にも上手とは言えないようなその作品を、
「ありがとう!」と嬉しそうに受け取る亜也。
瑞生は昔、時計屋で仕事していたことがあったのだ。

「亜湖にも特別ボーナスだ。」
亜湖の表情が輝く。
が、渡されたのは、チューリップとAKO、とアップリケの付いたシャツ。
「可愛いだろう。
 お父さんさ、昔縫製工場で仕事してたこともあるんだ。」
そのシャツにあきれ返り、受け取ろうともしない亜湖。
「本当にいろんなことやってたんだね。」亜也が言う。
「何しても長続きしなかったってことだろ?」と弘樹。
「何を言ってるんだ。
 お父さんはな、自分に合っている仕事を見つける為に、
 妥協しなかったんだよ。」
「物は言いようだね。」亜湖が冷たく言う。
「でもいろんな仕事をして、やっとお店を継ごう、お豆腐を作りたいって
 心の底からそう思えるようになったんだから、それで良かったのよ。」
潮香が言う。
気を良くした瑞生は、シャツを亜湖に当ててみるが
「こんなダサいの着れると思ってるの!?」と亜湖がつき返す。
「家で着ればいいじゃん。」と亜也。
「家で!?」ショックを受ける瑞生。
「あ、寝る時とか!」と潮香。
「寝る時!?」
「セーターの下に着るとか!」と弘樹。
「セーターの下!?
 ・・・そんなにダサいのか・・・。」益々落ち込む瑞生。

「ねぇ、お母さん。
 せっかくの合格祝いなんだし、お父さんにビールを飲ませてあげて。」
亜也が提案する。
「え・・・。」
「お願い、一本だけ。」亜也が手を合わせる。
「ま、しょうがないか。」
瑞生は大喜び。
「久しぶりのビールに、亜也のお酌。もう最高だな。」
ビールを注ぐ亜也の手元がくるう。
「ごめん!!
 私って本当にそそっかしい!ごめん!!」
潮香はそんな娘の様子に、少し不安を抱える。

麻生家。
部屋で電気もつけずにベッドに横になりCDを聞く遥斗。
部屋をノックし、両親が入ってきた。
「遅くなってすまなかったな。急なオペが入ったものだから。
 合格、おめでとう。」父・芳文(勝野洋)が言う。
「ありがとうございます。」父親の方を見ずに答える遥斗。
「これで、私や圭輔(佐藤祐基)の後輩だな。」
「もう少し嬉しそうにしたら?
 本当に変な子ね。合格発表も見に行こうとしないし。
 合格したこと、担任の先生が連絡くださったのよ。」と母・佐知子(兎本有紀)。
「自信がなかったのか。
 さあ、食事に行くから支度しなさい。」
遥斗が両親と視線を合わすことはなかった。
両親が出ていったあと、遥斗は飾ってあった家族写真を見つめる。

遥斗の父親はお医者様なんですね。
豪邸に住む遥斗。部屋には大きな天体望遠鏡もあります。
家族写真には、父・母、そして兄・圭輔と一緒に映る笑顔の遥斗。
公式HPキャスト欄によると、圭輔は16歳、となっています。
亡くなっているんでしょうか・・・。


受験勉強で使った参考書などを片付け、希望に満ちた笑顔で入学書類の入った
封筒を手に取る亜也。
その文字がゆがむ。
時を刻む音が大きく鳴り響く。
「疲れてんのかな・・・。」と呟く亜也。

入学式の朝。
父がくれた腕時計をはめ、新しい制服に身を包んだ亜也。
家族も亜也の制服姿に思わず笑顔になる。
「理加も着たいー!」
「じゃあ一緒にみんなで同じ高校に行こうか。」亜也の言葉に
「それ嫌味?
 私の成績で、東高受かるわけないじゃん。」
「そんなことないよ。」
「別に行きたくないし。」

両親は仕事のため、入学式に行くことが出来ない。
瑞生は午後から開ければいいと、早速着替えていたが、
「午後から開けるお豆腐屋さん、どこにいんのよ!」妻が却下。
「ねぇお父さん!写真撮って。」亜也が言った。

家の前でポーズを決める亜也。瑞生がシャッターを押す。
瑞生は潮香を呼び二人を並ばせシャッターを押す。
「おまえ、少し痩せたんじゃないか?」カメラを構えた瑞生が言う。
「変なダイエットでもしてるんじゃないでしょうね?」潮香が心配する。
「してないよ。」
「ならいいけど、今は体を作る大事な時なんだからね。」
「わかってる。」
二人がカメラに向かって微笑む。

続いて、家族全員並ばせる瑞生。
カメラの前で、家族が笑顔を作る。
亜湖だけがふてくされたまま。
家族の記念写真が撮影された。

「行ってきまーす。」子供達が学校へと出かけていく。
「気をつけてなー。」瑞生が言ったそばからつまずく亜也。
「だから気をつけろって言ったんだよ。」瑞生が笑った。

亜也の担任、西野良三(佐藤重幸)は英語教師、女子バスケ部の顧問でもあった。
亜也のクラスは、まりだけでなく遥斗とも一緒だった。
入学式に遅刻してきた遥斗は
「途中で女子高生が転んで怪我をして、
 ほっとけなくて病院についていったんです。」と担任に言う。
「お前も毎回大変だな。」
担任の教師は試験の日二人の為に走ってくれた先生だった。
亜也が会釈しても、無視する遥斗。
遥斗の友達が、今の話は本当か?と聞くと「嘘!」と答える。
「変なヤツ。」亜也がそう呟いた。

担任の西野は早速、1学期のクラス委員を決めようとするが、
立候補する者も推薦する者もいない。
西野は仕方なく、出席番号1番の男女をクラス委員に任命。
それは、亜也と遥斗だった。

そして二人は、さっそく来月に行われる合唱コンクールの準備を命じられる。
指揮者と曲目を決めるよう担任に言われ、亜也は遥斗をちらっと見るが
遥斗は無視。
「えっと、まず、指揮者を決めたいと思います。」仕方なく亜也が言う。
「クラス委員がやればいいと思います。」女子生徒の一人が言う。
「じゃあ、やって。」遥斗が亜也に言う。
「多数決取ります。
 えー、指揮者は、何だっけ?名前。」
「・・・池内です・・・。」
「池内さんに反対の人。」
そう言われて、誰も手を挙げるものはいなかった。
「じゃ、そういうことだから。」
強引に亜也に指揮者を押し付ける遥斗。
亜也は反論しようとするが、遥斗は次に曲目を決めようと話を進める。
「それもクラス委員で決めてもらっていいんじゃない?」女子生徒が言う。
非協力的なクラスメートに戸惑う亜也・・・。

夕食時。
家族は亜也がクラス委員に選ばれたと知り誇らしげ。
「でも男子のクラス委員なんか、全然やる気ないの。
 あ、あの子。入試の日に自転車乗せてくれた子。」
「あの二人乗り男!?」と瑞生。
「同じクラスになったの?
 じゃ、今度連れていらっしゃいよ。」と潮香。
「しょうがねーな。豆腐の一丁でも食わしてやるか。」
「この間はあんなに怒ってたくせに。」と亜湖。
「だってしょうがねーだろう。
 その二人乗り男がいなけりゃ、亜也だって東高に入れなかったかも
 しれないんだしよぉ。」
「でもその子、合唱コンクールの指揮者まで私に押し付けるんだよ。」
「なに?本当か!?
 うちの娘が、大観衆の前でタクト振るのか!?」
瑞生も弘樹たちも、またまた大感激。
そんな中、箸でハンバーグを掴もうとする亜也は、何度もすべらせる。
「亜也姉ちゃん下手くそ~。」理加が無邪気に言う。
「本当だね。理加の方がうーんと上手だね。」亜也が笑う。
そんな様子を心配そうに見つめる潮香。

潮香はコンクールの曲を調べる亜也に、病院に行ってみないかと言ってみる。
「ちょっと気になるのよ。
 ほら、最近よく物を落とすでしょ。それに、よく転ぶみたいだし。」
「多分、ちょっと疲れているだけだって。」
「うーん。でもね・・・」
「あーんま、驚かさないでよ。
 保健師のお母さんにそんなこと言われたら怖いじゃん。」
「いや、脅かすわけじゃないけど・・・」
「まあそこまで言うなら、お母さんの顔を立てて病院行ってあげても
 いいけど。」
「ほんと?じゃあ、そうしよっか。
 その方が安心出来るしね。」潮香がやっと安心する。
「大丈夫だよ。私まだ15だよ。」亜也はそう言い笑った。

学校。
「あのー、冨田さんだよね。
 合唱コンクールの伴奏お願いしたいんだけど。」
亜也が、指揮者は学級委員がやればいいと言った女子生徒に話しかける。
「え?他の人にやってもらってよ。」
「でもね、うちのクラス、ピアノ弾けるの富田さんしかいなくて。」
「クラス委員がやれば。」
「指揮と伴奏一緒にやるの?それじゃ隠し芸じゃん。」冨田の友達が笑う。
二人は別の話をしながら行ってしまった。
そんな様子を見つめていた遥斗は、めんどくさそうに机に突っ伏した。

亜也は、まりとともに同校のバスケ部に入部する。
8人の新入部員が「よろしくお願いします!」と先輩達に挨拶する。
新人の実力を見るためにと、一人ずつ順番にボールが回ってくる。
待っている間、同じクラスの松村早希(松本華奈)が亜也とまりに
「よろしくね。私、バスケットって初めてなんだ。」と話しかけてきた。
亜也の番が回ってきた。綺麗にシュートを決める亜也。

生物部に入部を決めていた遥斗。
中学から同級の恩田耕平(水谷百輔)がその理由を聞くと
部長がすごい美人、と答える。
その言葉につられて耕平も部室に。
だが部長は、男だった。
唖然とする耕平。遥斗は構わず席に付いた。

寝坊した亜湖に、つい潮香が小言を言う。
「少し甘えすぎなんじゃないの?
 お姉ちゃんが中2の時はねぇ、」
「どうせ私はお姉ちゃんと違って、出来損ないの落ちこぼれですよ!」
「すぐそういうこと言う!」亜也がたしなめる。
「何よ。いつもいつもイイコぶって。
 亜也ネェなんていなきゃ良かったのよ!」
そう言い家を飛び出していく亜湖。
「ちょっと、亜湖!」潮香が怒る。
「・・・なんなのよ、もう!」さすがの亜也も気分を害す。

その日、元気に家を飛び出した亜也は、走り出すと同時に足がもつれ、
店先で思いっきり転んでしまう。
店の前で車を磨いていた瑞生は、妻を呼びながら慌てて亜也に駆け寄る。
泣いている娘を抱き起こすと、アゴから出血をしている。
「潮香!救急車!!」
保健師の潮香は怪我の具合を見て、タオルで傷口を押さえ、
自分で病院に連れていくと言う。
亜也を車に乗せ、潮香は車を病院へと走らせる。

=常南大学医学部付属病院=
潮香は亜也を車から降ろそうとしたとき、彼女の手が無傷なことに気付き
怪訝に思う。

その頃、同じ病院に遥斗もいた。
忘れ物をした父に届け物を頼まれて来たのだ。
遥斗の父親は、この病院の教授だった。
届け物を済ませた遥斗が帰ろうとしたとき、
「遥斗・・・。
 助かったよ、ありがとう。」遠慮がちに父が言う。
遥斗は父を見つめ、会釈をして部屋を出ていった。
父・芳文のデスクの上にも、遥斗の部屋にあったのと同じ家族写真が
置かれていた。

治療を終え廊下に出てきた亜也は、遥斗に気付く。
「麻生君。」
「なに、その顔。」
亜也のアゴには、大きな絆創膏が貼られていた。
「転んだの。」
「お前、よく転ぶな。」
「・・・
 麻生君、どっか悪いの?」
「・・・俺、もう長くないんだってさ。
 若いから、進行も、早いらしくて。」
イスに座り、深刻そうにそう言う遥斗。
「そんな・・・。」
「嘘。」
「え!?」
「水虫。」
「嫌だ・・・。」
「嘘。」
「えぇ!?」
看護士がすれ違いざま、遥斗に会釈をしていく。
亜也もイスに座り、聞いてみる。
「知り合いなの?」
「元カノ。」
「え!?ずいぶん年上なんだね!」
「嘘。」
今度は、「東高合格、おめでとう」と医者が遥斗に声をかける。
「・・・俺の親父、ここの主任教授だったりして。」
「それも嘘なんでしょう。」
「あれ、バレた?」少し寂しそうに笑う遥斗。
亜也も笑った。

医師・谷口(佐藤誓)の説明を受ける潮香。
どうやら骨に異常もなく、1週間もすれば傷口もふさがるだろうと言う
医師の言葉に潮香もほっとする。
「あの先生、ちょっと、気になることがあるんです。
 普通、人が倒れる時っていうのは、咄嗟に手が出ますよね。
 でも娘には、手には擦り傷一つなくて、
 直接、顔をぶつけているんです。」
「え!?」潮香の言葉に驚く谷口。
「おかしいですよね。
 それに、最近よく物を落とすし、
 お箸で食べ物を上手くつかめなかったりするんです。」不安そうな潮香。

帰ろうとする遥斗に、
「合唱コンクールの曲、考えておいてね。」亜也が言う。
「決めてよ。何でもいいから。」
「何でもいいって、何かあるでしょ?
 明るい曲がいいとか、こんなテーマの曲がいいとか。」
「別に。俺、何の欲もないし。」
「え?」
「だから、何でもいいよ。文句も言わないし。
 ・・・
 人間ってさ、欲張りだと思わない?」
「そうかな。」
「動物も植物も、生まれたときから自分の寿命知ってるんだよな。
 人間だけだよ、欲張って余分に生きようとするのは。」
そう言い立ち去る遥斗。

「やっぱ変わってる・・・。」と呟く亜也。
そこへ潮香が戻ってきた。
「いい機会だからさ、ちょっと検査してもらおうよ。」
「検査?」

二人は、神経内科の水野宏(藤木直人)の診察を受ける。
「歩く際にふらつきを感じるようになったのは、いつ頃からですか?」
「1ヶ月くらい前だったと思いますけど、
 多分それは、睡眠不足のせいだと思います。」
「転倒するようになったのは?」
「え?
 高校入試の日に、転びました。
 でも私、そそっかしいんで。」
「喋り辛いということはありませんか?」
「・・いえ・・・。」

続いて、歩行テスト。
片足で立つ検査。
向かいに座った水野医師の人差し指と、自分の鼻を交互に触れる検査。
スピードを上げると、触れるポイントがずれてしまう。
目の検査。
MRI。

検査の合間に、潮香は瑞生に公衆電話から連絡する。
傷は綺麗に直ると知り、瑞生の喜ぶ声が聞こえてくる。
潮香は言葉を続けようとするが、あまりにもほっとする瑞生に
潮香は説明を続けることが出来なかった。

検査を終え、潮香と亜也が診察室に入る。
「検査の結果は後日お伝えします。」
「あの、私どっか悪いんですか?」亜也が尋ねる。
「毎日、自分の体の調子で気になることがあったら、 
 書き留めて欲しいんですが。」
「・・・はい。」
「難しく考えず、日記だと思って書いてくれればいいですから。」
「日記・・・。」
潮香が心配そうに娘の横顔を見つめた。

家に帰ると、亜湖が亜也に言う。
「どんな転び方をしたら、そんなとこ怪我するんだか。」
「ハイハイ。どうせ私はドジですよー。」
亜也はノートを広げ
『4月8日(金)
 今日、初めて大学病院・・・』と書き出した。
そこへ、瑞生がやってくる。
「どうだ。傷、痛むか?」
「ちょっとね。
 でもしょっぱなから学校休んじゃったから、ショック。」
「普通学校休めたら嬉しいじゃん!」と亜湖。
「だよな!
 そういうとこ、気が合うんだよな。」
「ウザ!」
「・・・
 とにかくだ。少しは手を抜け。 
 勉強も大事だけど、まだまだ大事なことってたくさんあるんだぞ。
 とにかく、いい加減が大事だ。」
「いい加減?」
「いい加減じゃなくて、いい、加減だ。」
「そっかぁ。そうだね。」亜也が微笑んだ。

自習時間。
担任の先生に合唱コンの曲を早く決めるよう言われた亜也たち。
先生が教室を出ていくと、
「池内さんが決めるんじゃなかったっけ?」
「何でもいいから。」
女子達が言う。
「じゃあ、みんなテキトーに好きな曲書いて、俺のところ持ってきてよ。
 そっからテキトーに決めるから。」遥斗がそう言った。
クラスメートの気の乗らない表情に、亜也は寂しそう。

『1歳6ヶ月児 健康診査会場』で子供の様子を見ていく潮香。
子供達が活発に身体を動かす様子と、先日の亜湖の検査の様子を重ねる潮香。
そこへ、潮香宛に電話が入る。
神経内科の水野からだった。
検査の結果が出たという。
「すぐに、病院に来ていただけますか?
 できれば、ご両親揃っての方がいいかと思います。」
「あの・・・それは・・・
 電話で話せるようなことではないっていう・・・ことですか?」
「とにかく、いらして下さい。お待ちしています。」

=学校=
自習時間の教室、亜湖は思い切って発言する。
「あの・・・
 あの、合唱コンクールの曲のことなんですけど、」
「何か候補あるの?」まりが聞く。
「そういうんじゃなくって、えっと、あの・・・
 一時間目、自習ってことだから、みんなで曲について話し合うのも
 いいかなーって。」
迷惑そうなクラスメートたち。
「あの、みんなで参加するコンクールなんだし、
 なんていうか、えっと、
 みんなで協力して・・・」

=病院=
一人で水野を訪ねていく潮香。
「ご主人は?」
「私一人で来ました。
 大丈夫です。私、これでも保健師ですし、
 以前は、看護師をやっていましたから。
 何より、母親ですから。」
そう言い、水野をまっすぐ見つめる潮香。

=教室=
「みんなで好きな曲いろいろ出し合って、」
「あー、ウザ!」「私熱いのニガテ!」女子達が言う。
「大体ムダなんだよな、合唱コンクールなんて。」
「実力テストまで時間もないから、自習したいんだけど。」
クラスメートが口々に文句を言う。
「時間はいくらでもあるじゃないですか。」

=病院=
「お嬢さんの病気は、脊髄小脳変性症だと思われます。」
「脊髄小脳・・変性症・・・」
「もう一度詳しい検査をしてみますが、間違いないでしょう。」

=学校=
「私の父は、お豆腐屋さんです。
 父は、おじいちゃんがやっていたお豆腐屋さんを継ぐのが嫌で、
 違う仕事に就いたんです。
 最初は、市役所に勤めてたんですけど、
 でも、デスクワークが向いていなかったみたいで。
 それで市役所を辞めて、それからいろんな仕事に就いたそうです。
 飽きっぽいのか、何をやっても、長続きしなくって。
 でも父は、手作りで腕時計を作ってくれたり、
 ちょっとダサいけど、ブラウス縫ってくれたり、
 それに、結構料理も上手だし、」
「何の話だよ?」「ワケわかんないんですけど。」クラスメートが中断する。
「えーっと・・・
 私が言いたいのは・・・
 父はそうやって遠回りをしたけど、でも何一つ、ムダなことなんてなくって。
 遠回りをしたからこそ、豆腐屋さんを継ごうと思ったんです。
 だから、寄り道をしたり、遠回りしたっていいんじゃないかなって。」

=病院=
「症状はゆっくりですが、確実に進行します。
 ただし、身体を動かす神経は破壊されても、
 知能には何ら問題ありません。
 身体を動かしたいのに動かない。
 しゃべりたいのにしゃべれない。
 そういう自分を、しっかりと認識できてしまうんです。
 非常に残酷な病気です。」
「・・・治りますよね・・・」

=自宅=
瑞生はアルバムを広げ、亜也の幼い頃の写真を見ていた。
そして、先日撮った家族の写真を新らしいページに加え、微笑んだ。

=学校=
「焦らずに、いろんなことに挑戦したり、
 夢中になったりして。」
「だから、コンクールのことはクラス委員が、」
文句を言おうとした女子生徒をもう一人が止めた。
まりと早希が、誇らしげに亜也を見つめている。
他のクラスメートもだ。

=病院=
「治るんですよね・・・。」
「私の知る限り、完治した例は一例もありません。」

=学校=
「みんなでムダなことするのも、悪くないんじゃないかな。
 だって私たちには、まだまだ沢山、時間があるんだから。」
遥斗も亜也を見つめていた。

『花ならつぼみの私の人生
 この青春の始まりを、
 悔いのないように大切にしたい』


主題歌「Only Human」と共に、木藤亜也さんの写真が流れます。
『悲しみの向こう岸に 微笑があるというよ
 たどりつくその先には 何が僕らを待ってる
 逃げるためじゃなく 夢追うために
 旅に出たはずさ 遠い夏のあの日

 明日さえ 見えたなら
 ため息も ないけど
 流れに逆らう船のように
 今は 前へ 進め
 
 雨雲が切れたなら
 濡れた道 輝く
 闇だけが 教えてくれる
 強い 強い 光
 強く 前へ 進め』

歌がドラマにとても合っていて、大好きな曲になりそう。

とても温かな池内家。
亜湖は姉に対してコンプレックスがあるようですが、
なんだか身近に感じる家族です。
亜也がまた、とても優しくて思いやりのある子で、
その分、悲しみが増しそうな気がします。

亜湖と遥斗が姉や姉に対して抱く気持ちは似ているのかな。
二人とも、姉兄にコンプレックスを持っていそう。
出来る兄姉を持つと、下は辛いものかもしれないですね。
遥斗の抱えているものも気になります。
ためらわずに生物部に入部した遥斗は、自分には何の欲もない、と
言っていました。
「動物も植物も、生まれたときから自分の寿命知ってるんだよな。
 人間だけだよ、欲張って余分に生きようとするのは。」
そう考える彼。
寿命、という言葉にこだわっているように思えます。
彼のお兄さんが、今、そういう状態なんでしょうか。

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