Sunday, December 2, 2012

1リットルの涙 - 第 3 話


『病気はどうして私を選んだの』

「ねぇお母さん、私の病気ってなーに?」
亜也(沢尻エリカ)に質問された潮香(薬師丸ひろ子)は平静を装い笑顔で答える。
「言ったでしょ。思春期特有のものだって。
 自律神経のバランスが少し崩れてるって。」
「良くなるのかな。」
「なるなる!」
「治るんだよね。」
「何言ってるのよ。心配ないって!
 大丈夫大丈夫!」

バスケの練習中、不安を母の言葉で消そうとする亜也。
先輩に、ぼーっとするなと叱られてしまった。

「亜也にはまだ言わない方がいいと思う。
 病気のこと知らせるの、まだ先にしたい。
 だって、高校一年生なんて、毎日がキラキラ輝いていて、
 人生で一番いい時じゃない。
 今はまだ、周りの皆と同じ高校生活を、思いっきり楽しませてあげたい。」
「うっとうしいぐらい、明るくいような。
 笑って、冗談かましてバカ言って、あいつの一番いい時期が、
 もっと楽しくなるようにね。」
潮香と瑞生(陣内孝則)はそう決心を固めた。

合唱コンクールまであと3週間。
亜也や遥斗(錦戸亮)たち1年A組の面々は『3月9日』の練習に余念がない。
 
同じころ、潮香は、常南大学医学付属病院の神経内科診察室を訪れていた。
「だんだん、歩けなくなるとか、寝たきりになるとか、治らないとか、
 そう言う言葉は、亜紀にはまだ言わないでやってほしいんです。」
亜也の主治医・水野(藤木直人)にそう願う潮香。
「いつまでも隠しとおせるものではありません。」
「それでも、もう少し、もう少しだけ、あの子に希望を持たせてやりたいんです。」
「その場しのぎの希望を持たせて何になります?
 亜也さんの体の機能は今後ますます、
「わかってます。そんなことわかってます。
 でも・・・あの子まだ、15才なんです。」
「充分自分の生き方を考えられる年です。
 亜也さんの人生に関わる大切なことです。」
「とにかく、お願いします。
 今はまだ、告知はしないで下さい。」
潮香はそう頼み込んだ。


放課後、亜也は遥斗に歌詞を覚えてくるようMDを渡す。
「了解しました。学級委員さん。」
遥斗はそう言いMDプレーヤーに差し込む。
そこへ富田圭子(葵)がやって来た。
「遥斗、まだMD使ってんの?私もうiPod買っちゃったよ。」
「物と女の子は、末永く大事にする男なんです。」
遥斗はそう言い帰っていった。圭子が遥斗の後を追う。
楽譜がぼやけ、目を擦る亜也。その時亜也の手から楽譜がするりと抜け落ちる。
「あれ・・・。」

池内家の食卓。
亜也の妹・亜湖(成海璃子)は、デパートに買い物に連れていってほしいと
両親にせがむ。
「今度マミと買い物に行く時用の、バックとスカートが欲しいの。
 あ、それと、美術で使う絵の具のセット。色いっぱい入ってるやつね!」
「亜湖お姉ちゃんお絵かき上手だもんねー。」妹の理加(三好杏依)が言う。
「うん、ありがとうー!」
瑞生は、今あるもので充分だ、と言うと、可愛く頼む亜湖。
「だめですっぴょん!
 日曜日は予定でいっぱいなの! 
 俺はな、お前の買い物に付き合えるような暇な男じゃないんです!」
いつもの調子で明るく振舞う瑞生。
食事が終わったらガンモの散歩に行こうと潮香は子供達に言う。
「運動不足の解消に、みんなでウォーキングでも行くか!」
「お父さんと一緒にウォーキングだなんて、死んでも友達に
 見られたくない!」
瑞生はそう言う亜湖のおでこにデコピンした。
潮香は亜也に、今後散歩に行く時は自分か瑞生を誘うように言う。
「痴漢にあったら大変だしな。
 亜湖は、痴漢にあっても向こうが逃げるだろうけど。」
そう言い笑い飛ばす瑞生。
亜湖はふてくされ二階へ上がっていった。

ウォーキング、リハビリとして、提案したんですね。
いつもと同じように振舞う両親ですが、亜也はいつもと違うと
感じているようです。
子犬のがんもの愛らしさ!ガンモはがんもを食べるのかな。

あくる日、部活を終えた亜也は、先輩の祐二(松山ケンイチ)に誘われ、
一緒にスポーツショップに行く。
そこで、祐二からお揃いの靴紐をプレゼントされた亜也の顔から笑顔がこぼれた。

ふたりは、ファーストフード店に立ち寄った後、一緒に帰った。
「ありがとうございました、これ。」
「ほんと?良かった。ぼーっとしてたから、疲れてるのかな、と思って。」
「あの・・・緊張しちゃって。
 こうやって先輩と二人でどっか出かけるの、初めてじゃないですか。」
「そっか。じゃ、これって、記念すべき初デートだな。」
亜也が恥ずかしそうに笑う。
「なんつって。」祐二も照れ笑い。
その時、道の向こう側から子供達が走ってきた。
亜也は子どもを避けようとするが、体が動かず、ぶつかってしまう。

『時々、自分の体が自分のものじゃないように感じる。
 私いったいどうなっちゃうんだろう。』
いつものようにノートを付けていると、なぜか字が上手く書けない。
亜也は不安そうに自分の手を見つめた。

別の日、とある寺では、遥斗の兄・圭輔(佐藤祐基)の一周忌の法要が行われる。
子どもたちの自慢話をする親戚たち。
東大の医学部に通う親戚は、「文系に行きたかったが偏差値で医学部に行けと
教師に言われた。」と笑っている。
「バカなんですね。
 成績いいっていう理由だけで医者になろうとするのって、
 僕は何も考えていないバカですって言ってるように聞こえますけど。」
遥斗はそう言い、法事の席を後にした。

寺の外でMDを聞きながら、遥斗は兄のことを思い出していた。
「こんな古いの捨てちゃえば。」
調子の悪いMDを叩きながら勉強する兄。
「やーだね。」
「そんなに医者になりたいの?」
「うん。やっぱあれじゃん。生きてるからには人の役に立ちたいじゃん。
 これマジ調子悪いなー。」
「だから捨てちゃえばー。」
「やだよ。
 俺は物にも人にも末永ーく優しい男なの。」兄が笑顔で答えた。
MDのことを指摘され言った言葉は、兄の受け売りだったんですね。
そして、このMDは兄の形見だった・・・。
(lovelytellyさんの記事 で気付きました。
 大きなMDなので、カセットと見間違えた!
 お兄さんが大切に使っていたものなのですね。)

父親の芳文(勝野洋)がやって来た。
「戻りなさい。子供じみた真似はするな。」
遥斗は父に向き合うと、
「俺、一度もないですから。医者になりたいなんて思ったこと。」と言った。

日曜日。
瑞生は、亜也が行きたがっていた中央公園のつつじ祭りに行こうと誘う。
買い物を断られたばかりの亜湖はそれに猛反発。
「ごめん、お父さん。私今日、予定いれちゃった。」
「どこ行くの?」心配そうに潮香が尋ねると、マリたちと出かけてくる、と
亜也は答えた。

亜也が訪ねていった場所は、常南大医学部付属病院。
病院内で亜也はある医者とぶつかってしまう。
以前亜也が遥斗と一緒だった時に声をかけた看護師がそのことを言う。
亜也はその医師・麻生芳文が遥斗の父親であることを知る。

遥斗の嘘が本当だったと知り驚く亜也。
「真面目な顔でしれーっと嘘言うから、私いつも引っかかっちゃって。
 あ、ごめんなさい。お父さんに。」
「いや。でも、愛想のないやつで困るでしょう?
 クラスでも浮いてるんじゃないかな?」
「いえ。人当たりはいいほうじゃないですか?
 一度家でご飯食べた時、意外と妹達と馴染んでましたし。」
「遥斗が君の家で?
 いや・・あそう・・・。君の家でご馳走になったんだ。
 それは世話になったね。ありがとう。
 で、今日はどうしたの?」
「私、ここの神経内科に通ってるんです。」
「神経内科・・・」
「自律神経のバランスが悪いとかで。
 あ、でも今日はただのお見舞いです。」

あそう・・・って、これは前回瑞生が言ったのとは別ですよね。
ちょっと耳に残ってしまいました。でも笑い取るところじゃないし。(笑)

芳文と別れた亜也は、入院中の優花(松本梨菜)の父・明彦(桜山優)を見舞う。
亜也は、優花の母・祥子(橘ゆかり)に明彦の病気のことを思い切って尋ねてみる。
「人間の器官で、体をスムーズに動かす命令を出しているのが、小脳と脊髄で
 その機能が上手く働かなくて、きちっとした命令が筋肉に伝わらなくて、
 思うように体を動かせなくなるの。
 でもね、こっちが話していることはきちんとわかるのよ。
 考えたりすることに障害はないの。」
祥子の言葉に思い当たることばかりの亜也は動揺を隠せず・・・。
見舞いのあと、水野の診察室を訪ねていく。

松本梨菜ちゃん、『あいくるしい』の唄ちゃんだ!
先週、気付かず。他の方のブログで教えていただきました!

水野が休みだと知った亜也は、看護師から彼の行きつけの食堂を教えてもらい
訪ねて行く。
店の前で待っていると、水野が出てきた。
二人は水野の散歩コースである土手沿いの道を歩いていく。
少年野球を見つめながら二人は話す。
「初めて1人で担当した患者の男の子が、相当な野球バカでさ。
 仕事が山ほど残っているのに、よくキャッチボールに付き合わされたんだ。」
「そうですか・・・。」
「・・・今日はどうしたの?
 僕に話があるんじゃないの?」
「あの・・・先生あの・・・私・・・
 あの・・・」
その時、野球をする子供達の大きな歓声に気をとられる。
亜也は、どうしても聞けなかった。
帰らないと親が心配する、という亜也に、水野は
「何かあったら、次の診察の時に。」と声をかけた。
そして彼女が帰っていく後姿を暫く見つめていた。

もしもこの時亜也に質問されたら、水野はどう答えたんでしょう。
彼女を真っ直ぐ見つめる水野に、彼女の全力で受け止めようとする水の姿を
見たように思いました。

本番を翌日に控えた合唱コンクールの練習中、ついぼーっとしてしまう亜也。
クラスメートに怒られてしまう。
慌てて仕切りなおそうとする亜也の手から、また、楽譜がすり抜けた。
気が付くと、遥斗が教室にいない。

亜也が探しに行くと遥斗は部室にいた。BGMに『粉雪』。
「みんな練習してるよ!何やってんの?」
「アクアリウムの観察記録。
 すげーよな。適度な生き物がいて、適度な水草があって、
 バランスが取れたアクアリウムって、それ自体で自活出来る。
 こんなにちっちゃくても、一つの生態系なんだよ。」
パソコンに向かいながら遥斗が言う。
「ふーん、そうなんだ。
 あ、この間、麻生君のお父さんと病院で会ったよ。優しそうな人だね。
 麻生君も将来はお医者さんになるの?」
「俺、医者とか向いてないから。
 大体さ、人が死のうが生きようが、どうでもいいじゃん。
 適当に死んで、適当に生まれて、そうやって自然でバランスが取れているんだし。」
遥斗はそう言い死んだ魚を見せる。
「人間だっておんなじだよ。
 別に無理して生き延びなくてもさ。」
「・・・そうかな。」
「そうだよ。」
「そうかな、そんな風に簡単に割り切れないと思うよ。」
「何を?」
「生きるとか死ぬとか、バランスとるとか、そういう仕組みとか、
 はいそうですね、わかりましたって、
 そんな風に人は簡単に割り切れない!」目に涙をためて訴える亜也。
「そういうのは人間のエゴ。」
「エゴとかそういうんじゃなくって!違う!」
「何が!?」
「何がって、違うよ。とにかく違う!」
「だから何が!」
「じゃあ麻生君は、自分の大切な人が病気になったり死んだりしても、
 それでいいって言えんの!?」
「・・・何ムキになってんの。バカじゃねー。」
亜也の涙に気付いた遥斗は、驚きながらもそう答える。
亜也は悔しそうに廊下へ飛び出した。

水野は明彦を診察したあと、隣の空のベッドを見つめる。
「かえ・・して・・・
 先生・・かえ・・して・・・」と声が聞こえた気がした。

=池内家=
「真っ黒クロスケ!」理加の言葉に瑞生が台所へ行ってみると
コンロの上の焼き魚から火が出ている。
慌ててガスコンロを止め、瑞生は潮香の姿を探す。
潮香は亜也の日記を必死な様子で読んでいた。
「あの子、このところおかしいでしょ。
 何か書いてないかと思って。
 おかしかったでしょ、昨日ぼーっとして。
 もしかしたら、あの子もう!」
「やめろ!落ち着け、潮香!
 俺達が取り乱してどうするんだよ。」

その頃亜湖は家のすぐ側を友達の(志保)と一緒に歩いていた。
「すごいよ!亜湖リンってそういう絵の才能があるんだ!」
「そんなことないよー。」友達に誉められ嬉しそうな亜湖。
『関東地区絵画コンクール』に入賞した絵を見つめながら歩く。
このお友達は、松本梨菜ちゃん、江尻さんと一緒に
『あいくるしい』に出演していた志保ちゃん!

家に戻った亜湖は、中学生絵画コンクールの一次審査を通過したことを
潮香に報告しようとする。
しかし、亜也の病気のことが頭から離れない潮香はどこかうわの空で、
亜湖の話をまともに聞いてやることができない。
「ごめん、あとにして。」
「いや、今、今!」
「忙しいから。」
瑞生が話を聞こうとするが、亜湖は「別に。」と答え部屋に行ってしまう。
家族の間に流れるいつもと違う雰囲気を、末の娘も感じていた。

8時近くになっても帰って来ない亜也を心配する潮香たち。
学校まで自転車で様子を見に行くと言う瑞生に、
「あのさ!正気なの?
 過保護すぎるんだよ、二人とも。
 まだ8時前だよ。」と亜湖。
「あんたは黙っていなさい。」と潮香。
「私何か怒られるようなこと言ったっけ?」
「ねぇ。大体どういうつもり?
 家族のことも考えもしないで、いつもいつも1人で勝手なことを言って!」
亜湖にそう言う潮香を止める瑞生。
「あーあ。そんなに優しくしてもらえるなら、私も病気になりたい。」
「亜湖!何て言った、今!」これには瑞生も怒り出す。
「私も病気になりたいって言ったの!」
「亜湖!」瑞生が怒鳴りつける。
そして、潮香は亜湖の頬を叩いた。
「・・・なんでよ。おかしいよ。おかしいよ、この家!!」
亜湖は部屋へ駆け上がった。

何も知らない亜湖ですから、彼女の気持ち、わかるような気がします。
彼女の胸の中も寂しさ、悲しさでいっぱいなのでしょう。

その頃亜也は、学校の生物室にいた。
パソコンで、『病気 小脳 脊髄』と入れ検索してみる。
そして、『脊髄小脳変性症』にたどり着く。

自分に最近起こっていることばかり、書かれている。
車椅子・・・話せなくなる・・・
明彦の姿と重なる。
『現在では進行を遅らせる以外に、治療法はない』
書かれていることに呆然となる亜也。

「誰?」急に声をかけられ驚く。遥斗だ。亜也は慌てて検索画面を閉じる。
「勝手にいじんなよ!
 何してんだよ、こんな時間に。」
「麻生君は?」
「俺は、昼間死んでいた魚がもしかしたら、白点病かもって。
 もしそうだったら処置しないと、他の魚も死んじゃうから。」
「・・・変なの。」
「は?」
「麻生君、人が死ぬのはどうでもいいのに、魚は気になるんだ。」
亜也が力のない声でそう言う。
「うるせーよ。」
「変なの。」
遥斗が亜也を見ると、亜也は泣いていた。

遥斗が家に戻ると、父親がこんな遅くまで何をしていた、と言ってきた。
「すみません。友達と会っていて。」
「あの子と会ってたのか?池内さんとかいう。
 夕飯までご馳走になったこともあるそうじゃないか。」
遥斗は部屋へ行こうとする。
「遥斗、お前、あのこと付き合っているのか?」
「そうじゃないですけど。」
「そうか。」
「どういう意味ですか?」
「いや、いい。」

きっと遥斗の父親は、亜也の病気のことを知り、息子のことを心配して
いるんですね。

亜也が家に戻ると、父や母が心配して駆け寄る。
二人の様子を冷静に見つめる亜也。
「ごめんなさい。合唱の練習があったから。」と答える。
家族の声援に、いつもの笑顔で答える亜也だった。

眠れない亜也は、カレンダーを見つめていた。
明日の予定に、『合唱コンクール』『診察日』と書かれていた。

翌日。
合唱コンクール直前の練習時、いつもと同じ様子の亜也に、
友達も遥斗もほっとする。
練習の後、舞台を見つめる亜也。
「お前だって変だよ。
 昨日、俺に変って言ったじゃん。
 でも、お前の方が変だよ。
 いきなり泣くし、いきなり復活するし。
 お前って、変。」
「・・・今日さ、答えが出るの。聞かなきゃいけないこと。
 逃げずにちゃんと聞こうと思って。
 でももし、それ聞いたら私、変わっちゃうかもしれない。
 今が最後なんだ。この私でいられるのも。
 きっと今が最後なんだよね。」
「何それ。クイズ?」
「そんなところ。だからさ、ちゃんと歌ってよね。
 口パクとかじゃ許さないから。」亜也が微笑んだ。

一生懸命、やるべきことをやろう。
病気を知った(感づいた)亜也からの最初のメッセージになるのかな。

瑞生たちが合唱コンクール会場に向かおうとすると、水野がやってきた。
「今日の診察の前に、ご両親とお話がしたくって。」
瑞生は理加を保育園に送り届けるため、潮香が水野の話を聞く。

「この前も申し上げました。主人も、告知には反対ですから。」
「この間の日曜日、亜也さん、1人で私を訪ねて来ました。
 ご存知なかったですか?」
「・・・ええ。」
「結局、何も聞かずに帰っていきました。
 ・・・もう限界じゃないでしょうか。
 亜也さん、今1人で苦しんでいるんじゃないでしょうか。」
「亜也が、何か気付き始めているのはわかっています。
 でも・・・でも、あの子を傷つけたくないんです。」
「それは誰に対する優しさですか?」
「優しさとかそんな、そんなんじゃ。
 親だったら誰だって。
 先生にはわかりません。
 先生まだお若いし、お子さんもいらっしゃらないし!」
暫くの沈黙の後、水野が言う。
「返してよ、って言われたんです。」
「え?」
「翔太君(川口翔平)という患者がいました。
 出会ったとき、彼はまだ小学生でした。
 初めて、1人で患者を任されて、緊張していた僕の気持ちなんてお構いなしに。
 患者というより、友達でした。
 同じく、進行性の病気でした。
 彼の両親も、告知はしないで欲しいと希望していました。
 まだたった10歳だから、過酷な運命を知らせるには幼すぎる。
 ギリギリまで知らせないで欲しいって。
 告知をしたのは、それから1年後です。
 ショウタは、もう自分の足では歩けなくなっていました。
 治らないとしった時、あいつは、私に言ったんです。
 先生、返してよって。
 知ってたら、もっといっぱい、いっぱい走ったのに。
 野球だってきっと毎日毎日、夜遅くまで練習したのに。
 僕の時間を返してよって。
 告知はしないで欲しいって言われた時、私は、どこかでほっとしていました。
 ショウタを傷つけたくなかった。
 でも本当は自分が傷つきたくなかったんです。
 確かに私に子供はいません。親御さんの気持ちはわかりません。
 でも亜也さんに悔いなく生きてもらうために、どうすればいいか、
 それを考えることは出来ます。」

亜也のクラスの合唱が始まろうとしていた。

「15才だから、まだ15才だから、真実を話さなければいけないんじゃ
 ないでしょうか。
 まだまだやれることが沢山ある、そういう時期だから、
 話さなければいけないんじゃないでしょうか。
 大切な今を、亜也さんに、悔いなく生きてもらう為に。」

亜也の指揮で、合唱が始まる。

潮香が曲の途中で駆けつけ、瑞生の隣の席に座る。
「俺はただ・・・たださ、
 なるべく笑って、冗談かましてバカ言って、
 あいつの一番いい時期が、もっと、楽しくなるようにって。
 そう思って、・・・だけどそれが出来ない・・・
 だって、あいつに隠し事している間、
 あいつの目、まともに見れない・・・」
瑞生が泣きながらそう呟いた。

合唱コンの後、遥斗は生物部のパソコンに向かう。
亜也が言った、
『じゃあ麻生君は、自分の大切な人が病気になったり死んだりしても、
 それでいいって言えるの?』と言った怒りの込められた言葉、
『人が死ぬのはどうでもいいのに、魚は気になるんだね。』と言った力ない言葉が
気になったからだ。
パソコンの履歴を調べる遥斗は・・・。

=診察室=
「診察の前に、今日は、話したいことがあるんだ。
 君の、病気について、今まで、詳しい説明を避けてきたけど、」
「脊髄小脳変性症ですか?」
亜也の言葉に水野も両親も驚く。
「先生、私の病気って、脊髄小脳変性症なんですか?」
「・・・そうだよ。」
「私・・・将来・・・将来優花ちゃんのお父さんみたいになりますか? 
 ・・・教えてください、先生。」
「ずーっと先のことだけれどね、なると思う。」
亜也の瞳から涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「亜也・・・今すぐどうこうってことじゃなくて、」潮香が言う。
「一つ聞いてもいいですか?」
「いいよ。」
「・・・病気は、・・・病気は、どうして私を選んだの?」
亜也の悲痛な訴えに、潮香は呆然となり、瑞生は涙を堪えるのに必死だった。

『病気は どうして私を選んだのだろう
 運命なんて言葉では かたづけられないよ』


沢尻さんの、か細い声での問いかけ・・・。
そして、映し出された言葉・・・。
この言葉を、亜也さんがどういう思いで書いたのか、
ドラマは丁寧に描いていました。

明彦の姿を見ている亜也にとって、この病気を受け入れるのはとても辛い
ことでしょう。
情報として仕入れるのと、実際に見てしまうのでは、ショックの大きさも
かなり違うはずです。
ただ、明彦や明彦の家族と知り合えたのは、これからの亜也にとって
プラスとなるのでしょう。
同じ病気を持つもの同志分かり合える気持ち。家族の気持ち。
そういった面も、今後描かれていくのかもしれませんね。

先に病気のことを知った潮香よりも、後から潮香から説明された瑞生の方が
子供達の前では平静を保つことが出来ていた。
こういう時、父親って頼りになりますね。
頭では理解していても、つい、取り乱してしまう。
感情を抑えきれない潮香の姿に切なくなりました。

そして、合唱コンの席で、あれ以来初めて泣き言を言う瑞生。
明るくしていようと努めても、それが出来ないジレンマ・・・。
声も涙も、生徒達の歌声と会場の暗さが隠してくれるから、
そういう姿を見せられたのかもしれませんね。
いつも明るく振舞っている分、彼の泣く姿に胸が締め付けられます。

ドラマでは水野先生が最初に担当した患者のことに触れていました。
彼が告知を進める理由は、医者としてより、患者本人の気持ちを
考えていたんですね。
告知する側の、つい、逃げたくなる気持ち。
告知を遅らせたことの後悔。
いつも淡々と語る水野医師に、こういう思いが隠されていたとは。
水野のこの体験に基づいた話が、潮香や瑞生を後押ししてくれたんですね。

合唱コンクールという行事は、クラスの生徒がまとまる大きなきっかけと
なったようです。
一緒に口を動かしながら指揮棒を振る亜也、そして、曲が終わり見せた笑顔が
とても綺麗でした。

遥斗も、亜湖も、亜也の様子に気付き始める。
この二人がどう変わっていくのかに注目しています。

pixy_japanさんの記事 によると、翔太役の少年は川口翔平君。
『87%』で、母親思いでちょっと生意気な小谷蒼太を演じていた子です。
役柄のせいもあるのか、雰囲気が変わっていて気付きませんでした!

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