Sunday, December 2, 2012

1リットルの涙 - 最終回

『遠くへ、涙の尽きた場所に』

20歳になった亜也(沢尻エリカ)は、常南大学付属病院で入院生活を
送りながら、日記を書き続けていた。
その傍ら、亜也は、養護学校時代に世話になったボランティアの高野
(東根作寿英)に依頼されて始めた「ふれあいの会」の会報にも
寄稿を続けていた。

病院の屋上で、洗濯物を干す潮香(薬師丸ひろ子)、瑞生(陣内孝則)、
亜湖(成海璃子)、弘樹(真田佑馬)、理加(三好結稀)。

「家族みんなで、洗濯物を干した。
 空が青くて、きれいだった。
 風は少し冷たかったけど、気持ちよかった。
 冬の匂いがした。」
 
一方、遥斗(錦戸亮)は、医学生として勉強の日々を送っていた。
亜也から別れの手紙を貰ってすでに1年ほどが過ぎていた。
遥斗の部屋の棚には「ふれあいの会」の会報が積まれていた。
ふと、机の引き出しにしまってある、亜也からの手紙と
返されたキーホルダーを見つめる。


「20歳。
 病気になって、もう5年が過ぎた。
 一つ一つ失って、残されたのは、わずかなものだけ。
 昔の私を、もう思い出せない。」

亜也はベッドから伝い歩きし、遥斗に貰った鉢植えの花に
霧吹きで水をかけた。

水野(藤木直人)は、マウスを使い、新薬の開発に力を注いでいた。
だが、効果はなかなかみられないが、水野は諦めようとはしなかった。
「雲をつかむような話。」と医師たちは言うが
「それでも、可能性はゼロじゃありません。」
「いずれにせよ、治験にいたるまでは長い時間がかかりそうですから・・・ 
 腰をすえてじっくり、がんばって下さい。」
医師たちの、期待のなさそうな言葉に、水野の表情は暗くなる。

亜也の病室で、お弁当を広げる家族。
弘樹が髪につけたワックスを、「そんなものは床にかけとけばいい!」と瑞貴。
「中学で彼女出来たらしいよ。」と亜湖がチクる。
「彼女!?彼女!?お前400万年早いだよ!」
父に髪をぐしゃぐしゃにされ、弘樹は使い古したバックから鏡を取り出し
髪型を直す。
理加は自分が描いた絵を亜也に持ってきた。
紅葉した木の絵。潮香は亜也のベッドの横にその絵を貼る。
そして、亜湖が描いた絵が展覧会で入選し、明和台東高校に飾られている、と
話す。
「見てみたいなー。
 行きたいな、東高。」

亜也の言葉に、家族は亜也を東高へ連れていく。
亜也の脳裏に、15才の自分が次々と浮かぶ。
友達と合格発表を見に来たこと、バスケットボール部員の姿・・・。
音楽室では、生徒たちが『3月9日』の練習をしていた。
彼らの歌声を聞きながら、亜湖が描いた絵を見つめる家族。
亜湖は、亜也の入学式の日に撮った記念写真の絵を描いていた。

「来て良かった。 
 思い出したから。
 15才の私は、ここで確かに、生きていた。」

病院のベッドから、遥斗が持ってきてくれた鉢植えを見つめる亜也。
「花びらが、一枚一枚開いていく。
 花も一度に、ぱっと咲くわけじゃないんだ。
 昨日がちゃんと今日につながっていることがわかって、嬉しかった。」

ベッドから自力で物につかまり立ちをしようとした亜也は・・・。

潮香が亜也の病室に行くと、亜也は床に座り込んでいた。
「亜也、どうした?転んじゃったの?
 怪我ないかな?」
そこへ水野もやって来た。
「おかあさん・・・。
 もう、歩けない。」
運動機能が著しく低下していた亜也は、とうとう自分の力で立ち上がることが
できなくなってしまったのだ。
「亜也。悲しいけど、頑張ろう!
 大丈夫よ。お母さんね、亜也をおんぶするぐらいの力、
 充分あるんだから。」

『お母さん わたし
 何の為に生きているの?』
日記にそうつづる亜也・・・。


診察をした水野は、亜也が突然危険な状態に陥る可能性があることを
潮香と瑞生に告げ、何かあったときすぐに家族に連絡を取れるように
しておいてほしい、と頼む。
瑞生と潮香は顔を見合わせ・・・。
 

水野の部屋を出た潮香は、亜也の病室の前で芳文(勝野洋)に出会う。

同じころ、瑞生は遥斗に会っていた。
「元気か?・・・じゃねえみたいだな。
 もう一年になるか。」
「はい。」
「俺な、お前には、ほんっと、充分すぎるほど、感謝しているんだ。
 だから、これからは、お前はお前の人生、きちんと生きてくれ。」
瑞生は遥斗にそう言う。

芳文は、潮香に遥斗は元気か、と聞かれ、
「まじめに勉強はしているようですが、自分の殻に閉じこもってしまって、
 また、昔に戻ってしまったようです。」
「そうですか・・・。」
「お嬢さんの具合はいかがですか?」
「・・・自分が情けないです。
 あの子が、日に日に弱っていくのに、何もしてやれなくて・・・。」
「・・・私は、6年前に、長男を事故で亡くしました。
 太陽みたいに、周りを明るくしてくれる子でした。
 父親の私でさえ、あいつがまぶしかった。
 池内さん。私には、別れの言葉を言う時間さえなかった。
 どうか、後悔をしないで下さい。
 今の、お嬢さんとの時間を、大事になさって下さい。」
「・・・はい。」

潮香が病室にいくと、亜也は必死にノートに字を綴っていた。
「亜也。そんなに無理しなくていいのよ。少し休もうか。」
「怖いの。今思ってる気持ち、書かなかったら、
 明日には、忘れて、消えてなくなっちゃうでしょ?
 日記は、今あたしがちゃんと生きてるって、証だから。
 亜也には、書くことがあるって、言ってくれたでしょ?
 お母さんが、あたしの、生きる意味、見つけてくれた。」
亜也はそう言うと、またノートに気持ちをぶつけていった。

遥斗は病院内を歩いていると、亜也が医師から、これから臨床実験に入る
大学5年生の学生たちを紹介されていた。
「僕たちね、これからお医者さんになるために、勉強させてもらうんだ。
 よろしくね、亜也ちゃん。」
「よ、ろ、し、く。」
「・・・ちょっと、難しかったかな。ごめんね。」

遥斗は立ち去っていく学生たちを呼び止める。
「あの!
 あの、もっと、ちゃんと、勉強して下さい。
 あいつ、体、上手く動かせないけど、上手く話せないけど、
 幼稚園児じゃありません。
 頭の中は、あなたと一緒です。ちゃんとわかりますから。」
その様子を、亜湖が見ていた。

『新しい効果の』『に効果が』『期待され』
研究の結果をパソコンに打ち込む水野の表情は明るかった。

「水野先生、ずっと研究室に篭りっぱなしですね。」
「神戸医大の先生と、頻繁に連絡とりあっているみたい。」
「もしかして、病院、変わられるのかしら。」
廊下を歩く看護士たちの噂話は、病室で食事をする亜也にも聞こえていた。
亜也は、食事を詰まらせて呼吸困難に陥る。

亜也が目を覚ますと、家族全員の心配そうな顔が目に映る。
「大丈夫!ちょっと食べ物、詰まらせただけ。大丈夫だからね。」
潮香が亜也に優しく言う。

「みんなの泣き顔が、涙でぼやけた。
 きっと私は、こんな些細なことで、死ぬのだろう。」
 
別の日、水野は、亜也宛に届いた一通のハガキを彼女の元に届けに行く。
が、亜也は、日記を書いていてそのまま眠ってしまったようだった。

部屋を出た水野は、授業を終えた遥斗の元に向かった。
「亜也ちゃんとは、会ってないの?」
「はい。人の役に立つ仕事がしたいなんて言っておいて、
 結局、あいつのこと、何もわかってやれなかったんです。」
「僕が神経内科を選んだのはね、あまりにも未知の領域が多い分野
 だったから。
 誰もが治せなかった病気を、自分なら治せるかもしれない。
 最初はそんな野心の塊だった。
 僕だって、何もわかっていなかった。
 そのイスに座った患者に、
 この病気はただちに命に関わるものではありません。
 こうしている間にも研究は進んでいきます。
 希望を捨てずに、頑張りましょう。 
 そう励ましながら、この病気の完治を諦めかけている気持ちがなかったか、
 といえば、嘘になる。
 でも諦めたくないと思った。
 患者が諦めていないのに、医者が諦められるわけないよな。」
水野は、遥斗にそう告げると、彼にハガキを託した。
「君も医者の卵だ。」

遥斗は水野に託されたハガキを読み・・・。
『動物も植物も、生まれたときから自分の寿命知ってんだよな。
 人間だけだよ。欲張って余分に生きようとするのは。』
病院の待合室に座りながら、遥斗は自分が同じ場所で亜也にいった言葉を
考える。
 
亜也の病室のドアが開く。
「先生?」亜也が聞く。
「すっかり根付いちゃったな、コイツ。」
遥斗は自分が亜也に渡した鉢植えを見て言う。
「久しぶり。」
「・・・」
「お前、ふれあいの会の会報に、日記の文章、ずっと載せてただろう?
 それ読んだって、中学生の女の子から、ハガキが来てて。
 
 死んじゃいたいと思っていました。
 私も亜也さんと同じ病気です。
 先生に、治らないといわれたときは、いっぱい泣きました。
 うまく歩けなくなって、学校でもジロジロ見られて、
 付き合っていた彼氏も離れていきました。
 何で私がこんな目に合うのって、毎日毎日、お母さんに当たっていました。
 でも、亜也さんの文章を読んで、辛いのは私だけじゃないんだって
 思いました。
 私は病気になってから、俯いて、地面ばかり見ていたことに気付きました。
 亜也さんみたいに強くなりたい。
 これからは、辛くていっぱい泣いても、その分ちゃんと前に進みたい。
 亜也さんのお陰でそう思えました。
 
 お前、人の役に立ちたいって言ってたよな。
 お前と初めてあった頃さ、俺、人が死のうが、生きようが、
 どうでもいいって思ってた。
 でも・・・今は違う。
 お前には、欲張ってでも、無理にでも、ずっと生きていてほしい。
 だから、俺・・・」

亜也が、カーテンの間から手を差し出した。
遥斗がカーテンを開けると、そこには涙を流してこちらを見つめる
亜也の姿があった。
亜也は、遥斗からハガキを受け取る。
「麻生君。
 歩けなく、なっちゃった。」
「うん。」
「でも、あたし…役に立てた。」
「ああ。」遥斗の瞳から涙がこぼれる。
「役に、立ったんだ。」亜也が微笑む。
亜也はハガキを大事そうに両手で握り締めた。

クリスマスが近づいたある日、亜也は、病室にやってきた水野に質問する。
「先生?他の病院、行くの?」
「違うよ。どうして?」
「ずっと、ここに、いる?」
「うん。いるよ。」
「良かった。
 見捨てられたかと、思った。
 いつまでも、あたしが、良くならないから。」
「見捨てないよ!絶対に見捨てない。
 だって君は僕の患者だもの。
 絶対に、諦めたりしない。
 君の病気を治すことを。
 だから、亜也ちゃんも諦めちゃダメだよ。」
「でも、もし・・・もしも・・・
 あたしの体、使ってね。
 病気の原因、見つけてね。
 同じ、病気の人の、役に、立ちたい。」
「・・・献体のこと言ってるの?」
亜也が頷く。
「先生の、役に、立ちたい。」
思わぬ言葉に動揺する水野は、涙を堪えながら言う。
「亜也ちゃん。今の君は、こんなに元気じゃないか。
 だから、そんなことを考えたりしちゃ、絶対にいけないよ。」

診療室に戻った水野は、パソコンに打ち込んだレポートを見つめ、
パソコンを怒りに任せて閉じ、机の上の書類を叩き落した。
そして、自分の無力さを噛み締め…。

「見捨てないよという一言が、どんなに心強いか。
 先生ありがとう。私を見捨てないでくれて。」

亜也は、潮香にクリスマスプレゼントに欲しい物を聞かれ、
「いい?わがまま、いい?」
「もちろん!何でも言って!」
「帰りたい。お家、帰りたい。」

潮香と瑞生から相談を受けた水野は、少し考えたあと、
「一日、だけでしたら。」と答える。
「通常なら、許可は出来ません。
 抵抗力も落ちていますし、自立神経系にも病変を生じており、
 血圧が低下することもあります。
 ・・・実は、この間亜也さんに言われたんです。
 自分の体を、研究に役立ててほしい。
 同じ病気の患者さんたちの、役に立ちたい、と。」
水野の言葉に涙をこぼす潮香と瑞生。
「亜也さんが、今帰宅を望んでいるのなら、全力でかなえるよう
 努力しましょう。
 生きている、ということを実感してもらうために。
 病院で待機しています。 
 少しでも変わったことがあったら、すぐ、ご連絡下さい。」
二人は泣きながら、そう話す水野に頭を下げた。

その夜、潮香と瑞生は、亜湖、弘樹、理加に、亜也の病状のことを伝えた。
「ねえちゃん、あまり、良くなくてな・・・。」瑞生が泣き出す。
「次に入院したら・・・暫く、帰れないかもしれないの。
 だから、今度かえってくる時は・・・」
涙をこらえて話す潮香も、言葉に詰まる。
「お父さんとお母さんがそんなんでどうすんの。
 精一杯明るくしようよ。
 みんなで、亜也ねえに優しくしてあげようよ。」と亜湖。
弘樹も理加も、頷いた。
「そうだな。そうだったな。」
瑞生も潮香も泣きながら微笑んだ。

「おかえり!!」
とびっきりの笑顔で亜也を迎える亜湖、弘樹、理加、そしてガンモ。
その日、池内家では、ひと足早いクリスマスパーティーが開かれた。
そこで、亜湖、弘樹、理加に、プレゼントを渡す潮香。
「可愛い!」亜湖は新しい服に大喜び。
「カッコいい・・・」弘樹にはスポーツバッグ。
「うわぁ!色いっぱい!」理加には絵の具。
それは、亜也が3人のために選んだものだった。
潮香は、亜也が妹弟たちに書いた手紙を読んで聞かせた。

『ごめんね亜湖。
 最近、昔の服ばっかり着てるよね。
 私がパジャマばっかりだから、新しいの欲しいって言えなかったんでしょう?
 亜湖は、おしゃれ大好きだったのに、ごめんね。
 ごめんね弘樹。
 小学校から、同じスポーツバッグ、使ってるね。
 中学生になったら、やっぱり、カッコいいのを持ちたかったでしょう?
 遠慮させちゃって、ごめんね。
 理加もごめんね。
 私に、絵を描いてくれるために、絵の具ぎゅっと絞っても
 出なくなっちゃうまで使ってくれて。
 亜湖、ヒロ、理加、いつもありがとう。
 ずっと、お母さんをとっちゃって、ごめんね。』

「お姉ちゃん、お母さんなんかより、あんたたちのこと
 ちゃーんと見ていたのね。」
「亜也ねえはもう、水臭いんだよ。」と亜湖。
「ずーっと大切に使うね。」と弘樹。
「理加使わないで、取っておくね。」
亜也は幸せそうに微笑んでいた。

「メリークリスマス!」
池内家のクリスマスパーティーが始まった。
 
あくる朝、亜湖は学校へと駆け出す弘樹、理加を呼び止め瑞生に言う。
「お父さん。私、お願いがあるんだ!」

亜湖は、店先で亜也を囲んで家族写真を撮ろうと提案したのだ。
亜湖は、カメラを見つめながら、
「ずっとあるからね、亜也ねえ。
 亜也ねえが帰ってくる場所、これからも変わらないで、
 ここにずっとあるから。」と亜也に伝えた。
「ありがと。みんな。」
亜也はそう言い、胸に手を当てた。

「胸に手を当てる。
 ドキドキ音がする。
 嬉しいな。
 私は生きている。」
 
高野が池内家を訪ねてくる。
「亜也さんの文章、ここのところ反響が大きくて、
 出来れば、過去の日記も紹介させてもらいたいんです。」
潮香は読者からの手紙を受け取り、亜也に聞いて見る、と微笑んだ。

入院生活に戻った亜也は、やがて上手く話すことが出来なくなり、
文字盤を使って水野や潮香たちとコミュニケートするようになっていた。
『おねがい
 にっき 
 かきたい』
亜也は水野に訴える。

潮香は病院の廊下を芳文と歩きながら、一度お礼に伺いたい、と申し出る。
「いやあ、私は何もしていませんよ。
 遥斗は昔から、私の意見など聞かず、
 一人で考えて、一人で行動する子ですから。」
「先生。子育てって、思い込みから出発している部分があると思いませんか?
 私、辛さは変わってあげられなくても、亜也の気持ち、
 わかっているつもりでした。
 怒られちゃうかもしれないんですけど、亜也の日記、読み返したんです。
 どうして亜也なんだろうって、私がメソメソしている間に、
 あの子、一人で格闘して、自分を励ます言葉、一生懸命
 探していたんです。
 親が子供を育てているなんて、おこがましいのかもしれないですね。
 きっと毎日、亜也、妹、弟たちに、
 私の方が、育てられているんです。」

亜也は、何度もペンを握りなおしながら、必死にノートに言葉を綴った。

赤いガーベラを手に亜也の病室へ向う遥斗を呼び止める芳文。
「毎晩遅くまで大丈夫か?」
「今の俺じゃ、たいしたこと出来ませんけど。」
「医者だって同じだよ。
 年を経るごとに、自分の無力さを感じるばかりだ。
 人の運命は簡単には変えられない。
 でも、どうしても思ってしまうな。
 どうして、亜也さんなんだろう。
 どうして、圭介だったんだろうって。
 子ども扱いしすぎたのかもしれないな。
 お前は昔から、圭介とは全く違っていた。
 ガンコで、意地っ張りで、不器用で。
 だから心配だった。
 お前は私に似ているから・・・。
 もう何も言わない。
 自分の信じたことをやりなさい。
 お前はもう充分大人だ。」
芳文は、遥斗にそう告げた。
 
芳文と別れた遥斗は、亜也の病室を訪ねた。
『さむかった』
「外ね、大雪。3メートルも積もっちゃってさ。」
『うそつき』
遥斗が笑う。
『よんで
 にっき』
「これ?」
亜也が頷く。

遥斗は日記を開く。

『あせるな
 よくばるな
 あきらめるな
 みんな一歩ずつ
 歩いてるんだから』

「上手いこと言うな、お前!」遥斗はそう言うと、再び日記を読み始める。

『自分だけが苦しいんじゃない。
 わかってもらえない方も、
 わかってあげられない方も、
 両方とも、気の毒なんだ。』

『花ならつぼみの私の人生
 この青春の始まりを、悔いのないよう、大切にしたい。』

『お母さん。
 私の心の中に、いつも私を信じてくれているお母さんがいる。
 これからもよろしくお願いします。
 心配ばかりかけちゃって、ごめんね。』

『病気は、どうして私を選んだのだろう。
 運命なんていう言葉では、かたづけけられないよ。』

『タイムマシンを作って過去に戻りたい。
 こんな病気でなかったら、恋だって出来るでしょうに。
 誰かにすがりつきたくて、たまらないのです。』

『もうあの日に帰りたいなんて言いません。
 今の自分を、認めて、生きていきます。』

『心無い視線に、傷つくこともあるけれど、
 同じくらいに、優しい視線があることもわかった。』

『それでも私はここにいたい。
 だってここが、私のいる場所だから。』

『いいじゃないか、転んだって。
 また起き上がればいいんだから。
 転んだついでに空を見上げれば、
 青い空が今日も限りなく広がって微笑んでいる。』

『人は過去に生きるものにあらず。
 今出来ることをやればいいのです。』

『お母さん、わたし結婚出来る?』

「お前、頑張ったな。
 頑張って、生きてきたな。」
遥斗の目から涙が溢れていた。
そんな遥斗に亜也は、文字盤で答える。
『そうだよ』
「威張んなよ。」
亜也が笑う。
『いきてね』
亜也の、遥斗の瞳から涙がこぼれる。
『ずっといきてね』
遥斗の顔を見つめる亜也。
「わかった。」
遥斗は涙をこぼしながらそう答えた。

日記の最後のページには、乱れた文字で「ありがとう」と書かれていた。

亜也が微笑みながら目を閉じる。
「寝たの?
 笑ってんなよ。」
外は雪。
亜也の布団を掛け直す遥斗。
亜也の瞳から涙がこぼれた。

=5年後=
亜也の急変を知らせるランプに、水野が病室に駆けつける。
病室にいた潮香と瑞生は廊下に出され・・・。

看護士が部屋のドアを開ける。
支えあうように病室に入る二人。
「亜也ーーーっ!!」
瑞生の慟哭が廊下に悲しく響いた。


亜也の1周忌の朝、潮香は亜也の日記に続けて、彼女への手紙を書いた。

『亜也へ

 あなたと会えなくなってもう1年が経ちました。
 亜也、歩いていますか。ご飯が食べられますか。
 大声で笑ったり、お話ができていますか。
 お母さんがそばにいなくても、毎日ちゃんとやっていますか。
 お母さんは、ただただ、それだけが心配でなりません。

 「どうして病気は私を選んだの?」
 「何のために生きているの?」
 亜也はそう言ったよね。
 苦しんで苦しんで、たくさんの涙を流したあなたの人生が何のためだったか、
 お母さんは、今でも考え続けています。
 今でも、答えを見つけられずにいます。

 でもね、亜也。』

亜也の墓前に手を合わせる潮香と瑞生。
水野が声をかけてきた。
「お嬢さんは、凄い人でした。
 最後の最後まで、諦めようとしなかった。」
「普通の、女の子ですよ、あの子は。」
「私らの、娘ですから。」
水野が亜也の墓前に手を合わせる。
「ゆっくりですが、一歩一歩、医学は進歩しています。
 あと10年あれば、5年あれば、 
 どうしても、そう思ってしまって。
 でもそんなの言い訳なんです。
 亜也さんのいる間に、もっと、もっと、
 やれることがあったのかもしれません。」
「先生は、充分やって下さいました。」
「私ら、ほんとに、感謝しています。」
水野が二人に会釈をし、帰っていく。
「池内さん。
 やっぱり、亜也さんはすごい人でした。」
潮香と瑞生は水野の言葉に、辺りを見渡す。
すると、亜也のもとに、たくさんの人たちがやってきたのだ。
若者たち、家族連れ、老夫婦、車椅子の少年・少女――
それぞれの手には、赤いガーベラが握られていた。
その花言葉は…。

『でもね、亜也。
 あなたのおかげで、たくさんの人が生きることについて
 考えてくれたのよ。
 普通に過ごす毎日がうれしくて、
 あったかいものなんだって思ってくれたのよ。
 近くにいる、誰かの優しさに気づいてくれたのよ。
 同じ病気に苦しむ人たちが、ひとりじゃないって思ってくれたよ。
 あなたが、いっぱい、いっぱい涙を流したことは、
 そこから生まれた、あなたの言葉たちは、
 たくさんの人の心に届いたよ。

 ねえ、亜也。
 そっちではもう泣いたりしていないよね。
 …お母さん、笑顔のあなたに、もう一度だけ会いたい…』

水野が、瑞生が、潮香が、そっと微笑む。

学校の体育館。
バスケットボールをドリブルする亜也。
そんな亜也を見つめる遥斗。
亜也がシュートを決め、そして遥斗に微笑んだ。

「生きるんだ!」

『昭和63年5月23日午前0時55分
 木藤亜也さん 25歳で永眠
 花に囲まれて 彼女は逝った

 亜也さんが14歳から綴った日記「1リットルの涙」は
 現在、役180万部を発行ー
 29年の歳月を経て
 今もなお多くの人々に勇気を与え続けている

 現在、妹の理加さんは
 塾の先生として子供達に
 勉強を教えている

 弟の弘樹さんは
 警察官として地域の安全を
 守っている

 妹の亜湖さんは
 亜也さんの通っていた
 東高を卒業ー
 潮香さんと同じ
 保健師として働いている

 父・瑞生さんと母・潮香さんは
 今も亜也さんの想いを
 伝え続けている』

=一部公式HPより引用=


赤いガーベラの花言葉、『神秘』でいいのかな。

今ある命を大切にしよう。
見終わった今、そう強く思っています。
自分の命。家族の命。友達の命。隣の人の命。

たくさん、いろんなことを考えさせてくれたドラマでした。
ドキュメンタリー、と言ってもいいのかもしれません。
原作をまだお読みでない方は、是非、読んでいただきたいです。

亜也さんの側に、遥斗はいません。
ドラマの亜也さんは、遥斗に救われている部分が沢山あったと思います。
言いたいことを、ビシっと言ってくれたのも、遥斗でした。
最終話でも、医学生へ言い放った言葉にどれだけすっきりしたことか。

人の命に関してクールな考えを持つ遥斗。
彼は、亜也と会わない間も、亜也が書き綴ってきた文章を
ずっと読んできていました。
遥斗なりに感じることはあったと思います。
でも、亜也の文章に触れた、同じ病気だという少女の感謝の言葉に、
遥斗は改めて、亜也の凄さを思い知らされたのでしょう。
そしてきっと彼は、亜也だけでなく、全ての人の命の重さに気付いたのだと
思います。

亜也の家族も、みんなとても温かく、優しい人たちだった。
亜湖が姉の病気を知り、そこから変わって行く様子はとても嬉しかった。
そして、両親の深い深い愛情。
家族の見せる温かさ、優しさに、家族の大切さを再確認した思いです。

演じていた人たちもみな、素晴らしかった。
ベテランの方々の素晴らしさはもちろん、
亜也役の沢尻エリカさん!
難しい役だったと思いますが、彼女の涙に何度心を揺さぶられたことか。
次作にも期待しています。

遥斗を演じた錦戸さんの流した涙にも、切なくなりました。
錦戸さんは『がんばっていきまっしょい』でのヒロインの幼馴染とは
また違ったタイプの同級生を、とても丁寧に演じられていたと思います。

主題歌もとても良かった。
この曲が流れると、条件反射で涙が出てしまいそう。

そして最後に・・・
亜也さん、ありがとう。
あなたが残した言葉を、大切にしていきます。

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