Sunday, December 2, 2012

1リットルの涙 - 第 5 話


『障害者手帳』

亜也(沢尻エリカ)は、リハビリ科専門医・田辺(小林正寛)の指導を受けながら
リハビリを続けていた。
しかし、亜也はいつもとようすが違い、リハビリにも身が入らない。
田辺と担当医の水野(藤木直人)はそんな亜也に、あと2回点滴が済めば
退院。薬の効果が出ているようだ、と告げる。
「効果・・・。
 私には効果が出ているようには思えないんです。」
退院を聞いても少しも嬉しそうではない亜也を、水野は心配そうに見つめた。

同じころ、潮香(薬師丸ひろ子)は、明和台東高校を訪ね、担任の西野(佐藤重幸)に
亜也の病状を伝えていた。
西野は、亜也が回復困難な病気であることを知ってショックを受けるが、
クラスメイトにも呼びかけて彼女を支援することを約束する。
潮香は西野に、亜也の病名を生徒たちには伏せておくよう西野に頼む。

教室を後にした潮香は、体育館の前で足を止めた。
体育館の中では、バスケットボール部が練習をしていた。
潮香は彼らの練習を見つめながら、そこに亜也がいた頃のことを思い出していた。
「あいつ退院出来るんですよね。」
背後から声をかけられ振り返る潮香。遥斗(錦戸亮)だ。
「麻生君!
 ええ、もちろん。
 二学期から、また亜也のことよろしくね。」
潮香はそう明るくいい、その場を立ち去った。
 


潮香を見送った後、祐二(松山ケンイチ)とすれ違った遥斗は、すれ違いざま、
「あいつずっと待っていましたよ。
 雨の中、ずっと。」
と言う。祐二は何も言えず、その場を足早に通り過ぎた。

『8月29日(月)
 終わった。
 人生に一度の夏休みが
 終わったような気がした。』

退院を目前に、亜也はこんな風に感じていたのですね。
その頃の亜也には、絶望という言葉しかなかったのでしょう・・・。

亜也の退院の日、潮香は、水野から障害者手帳の申請についての説明を受け
戸惑う。
「あの・・・ちょっと待って下さい。
 確かに亜也は、足が少し不自由になりましたけど、
 まだ歩けますし、障害者の認定までは・・・。」
「お母さんは保健師さんですからご存知でしょうが、
 障害の認定はその程度によって1級から7級まで別れていて、
 手帳が交付されるのは、6級までです。」
「はい。」
「今の時点での亜也さんの障害の種類は、肢体不自由。
 等級は、移動機能の障害の程度から、6級の認定となります。」
「6級・・・。
 でも確か、手帳が申請出来るのは、
 障害の程度が、ある程度固定された場合ですよね。」
「はい通常は。
 ですが、亜也さんの場合、障害が今の時点止まることはなく、
 進行することは、確実ですから。
 手帳の交付を受ければ、今後、車椅子が必要になった場合や、
 住宅を改造する場合、費用が一定額保証されますし、」
「あ、あの・・・少し、考えさせて下さい。
 亜也にも、聞いてみないと・・・。」
水野はあまり賛成出来ないようだったが、潮香の言葉に資料だけを手渡した。

亜也の病室では、亜湖(成海璃子)が退院の準備をしていた。
「ごめんね。夏休みも最後なのに、こんな手伝いさせちゃって。」
「別に。どうせ家にいたって、店の手伝いさせられるだけだし。」
そう言いながらテキパキと亜也の荷物をカバンに詰める亜湖。
そこへ潮香が戻ってきた。
「ごめんね、遅くなっちゃって。支度出来た?」
「亜湖が全部やってくれた。」
「そう。ありがとね!
 じゃあ帰ろうか。」
荷物に触れようとする亜也に
「いいから。」と亜湖。
「ごめん。何も出来なくて。」
「さっきからごめんごめんって。ウザイよ。」
亜湖はそう言い先に病室を出ていった。
亜湖の口の悪さは、家族なんだから手伝うのは当たり前、という心の
表れのような気がします。
亜湖らしい、優しさの表れですね。

亜也のぎこちない歩き方に、潮香の手が亜也に伸びる。
「一人で大丈夫。これもリハビリだから。」
「そうだね。」
「まだ?もうエレベーター来ちゃうよ。」
「ごめんね。遅くって。」亜也が笑顔で言う。
亜湖はこの時初めて姉の歩き方に気付き、ショックを受ける。

瑞生(陣内孝則)は普段と変わらない様子で亜也を迎え、いつものように
亜湖と口げんかを始める。
「なんかお父さんと亜湖の、兄妹げんか聞いていたら、家だなーって
 ほっとする。」
「兄妹じゃない!親子だ。」
弟・弘樹(真田佑馬)も亜也の歩き方に戸惑いを隠せない。
「亜也姉、ペンギンさんみたーい!」
妹・理加(三好杏依)の無邪気な言葉に一瞬固まる亜也は、それでも笑顔で振り返り
「可愛いでしょ。」と笑った。

疲れたからと一人部屋に戻った亜也。
自分のベッドは二段ベッドの上段。とても一人では上れない。
すると、亜湖がやってきて、自分の枕と亜也の枕を取り替える。
「私枕代わると寝れないから。」
と少しぶっきらぼうに言い、てきぱきと亜也が休めるよう準備した。
「ごめんね。」
「またそれだ。」
「ごめん。」

「弘樹。明日スパイク買いに行きなさい。」
家計簿をつけながら、潮香が風呂上りの弘樹に言う。
「え?いいの?」
「ごめんね。破れていること気付かなくて。」
「何だー。もう破れちゃったのかよ。
 だからいつも言ってんだよ。物は大事に使わなきゃいけないってさ。」と瑞生。
「弘樹は大事にしてたわよー。いつも使ったら、磨いていたし。」
「だったらそんな早くに破れるわけないじゃないか。」
「いいよ、少しぐらい破けただけだし。まだ履けるから。」弘樹が言う。
「ダメよ。靴はちゃんとサイズが合った物を履かなくちゃ。
 靴、もう小さいんでしょ。」
「うん。」
「なんだよ。足がでかくなっちゃったから、破れちゃったのか。
 だったらお前、最初っから言えよ。」と弘樹に言う瑞生。
「お父さんが頭ごなしに言うから。」
「うん。悪かったよ・・・。」
「まぁ、気にすんなって。」弘樹が言う。
「気にすんなって、それが親父に言う言葉か、お前。」
「ハイハイ、そこまで。とにかく明日、買いに行きなさい。」
「サンキュー!一番安いの、買うからね。」
「バカヤロー。そんなこと、子供が気にすることはねーんだ。」
「無理すんなって・・・。」
「!何て言った?お前今、」
「おやすみー!」弘樹と理加が二回へ駆け上がる。
「いい夢見ろよー。」瑞生が子供達に言った。

「あのね、少し、貯金切り崩そうと思ってるんだけど。」
子供達が部屋に行ったあと潮香は瑞生に言う。
「何言ってんだよ。たかがスパイクぐらいで、お前。」瑞生が笑う。
「亜也、明日から、タクシーで登校させようと思ってるの。」
「おい、亜也、そんなに悪いのか。」
「そうじゃなくてね。
 水野先生も、なるべく、今までどおりにっておっしゃったんだけど、
 でもまたもし、転んで怪我でもしたらと思って。」
「ああ。わかった!
 亜也は、タクシーで通わせよう。
 迎えには俺が行くから。
 店番は、弘樹と亜湖に、交代でやらせよう。な。」
「ありがとう。
 それからね、これ。」
潮香が障害者手帳の申請書を渡す。
「手帳があれば、タクシーも割引になるし、
 車椅子が必要になった時は、その費用も一部負担してもらえるの。」
「こんなものはいらない!
 俺は父親だ。亜也の面倒は俺がみる。
 国の厄介になんかなる必要はない!」
瑞生はそう言い、書類を突き返した。

潮香は素敵なお母さんですね。
子供達のちょっとした変化も敏感に感じる母親。
弘樹のスパイクの話には、ちょっと切なくなりました。

翌日。
潮香は亜也にタクシーの迎えが来たことを知らせる。
「私・・・歩いて行けるのに。」
「バスに乗るでしょう。
 座れるとは限らないし、
 立ってるときに急ブレーキかかったら大変よ。」 
「ごめんね。何か無駄なお金使わせちゃって。」
「何言ってんのよ。必要なお金でしょ。
 まりちゃんに頼んであるから、校門のところで待っててくれるって。」
「え?」
「大丈夫。病気のこと、詳しいことは話してないから。」

亜也がタクシーで登校するのを見送る家族。
「亜也姉・・・全然良くなってないじゃん。
 入院までしたのに、こんなのおかしいじゃん。」と亜湖。
弘樹も同じ思いだった。
「治るには、少し時間がかかるみたい。」と潮香。
「遅刻するぞ。さっさと学校へ行け。」
瑞生はいつものように明るく子供達にそう言った。

登校した亜也は、友人のまり(小出早織)や早希(松本華奈)にサポートされながら
教室に向かう。
生徒たちが黒い靴で登校していくなか、亜也だけが白いウォーキングシューズ。
「ごめんね。」と謝る亜也にまりと早希が「ゆっくりでいいんだからね。」と
声をかけた。

西野は、クラスメイトに
「池内は、思春期特有のちょっと難しい病気の為に、
 少し歩くことが不自由になっているんだ。
 回復には、少し時間がかかるそうだ。
 ついては、教室移動など、みんなで池内のフォロー、しっかり頼むぞ。」
と説明した。
「あの・・・みんなには迷惑かけちゃうと思うけど、
 よろしくお願いします。」亜也が頭を下げる。
「迷惑なんかじゃないって。」「友達なんだから。」
まりや早希が言う。
「ごめんね。」亜也がまた謝った。
遥斗はそんな亜也をじっと見つめていた。

潮香は職場にやって来た住人に、足に障害を抱える夫が使う車の改造について
相談を受ける。
身障者手帳を提示されると、潮香はそれを見つめてしばらくぼーっとしてしまう。

担任の西野が二学期のクラス委員を選出すると言い出す。
生徒からは一学期と同じでいいのでは、と声が飛ぶが、
「今の水野には、荷が重すぎるだろうから、
 せめて池内は外してやってくれ。
 誰か立候補するものはいないか?」
冨田圭子(葵)が立候補した。
「男子で立候補するものは?」
「遥斗、続けてやってよ。」圭子が言うと、
「耕平、お前やれよ。」遥斗は恩田耕平(水谷百輔)に押し付けた。
圭子、ガッカリ!

下校時、亜也の帰り支度を手伝うまりと早希。
「ごめんね。」
「いちいち謝らない!」
「もし早希が怪我して、松葉杖を付いたら、亜也も助けてくれるでしょう?」
「そりゃ、もちろんそうだけど。」
「そういうことだよ!」
友達の言葉に亜也は頷く。
「部活行くよね。」
「行きたいけど・・・。」
「みんなと同じ練習メニューはこなせないだろうけど、
 亜也が出来ることをやればいいんじゃない?」
「そうだよ。
 病気になったからって、部活まで諦めるつもり?」
「そっか。そうだよね。」
その時亜也は、教室を出ていこうとする遥斗に気付き呼び止め、駆け寄ろうとする。
よろける亜也に
「走るんじゃねーよ。危ねーだろ。」
「ごめん。」
「・・・なに?」
「うん・・・。あのー・・・。」
まりと早希が気を利かせ、遥斗を待つ耕平たちを押しながら教室から出ていく。
「この間は、ごめんね。みっともないとこ見せちゃって。」
「別に。」
「私・・・強くなるから。」
「やめとけ。強い女なんて可愛くないし。」
「でも泣いてばかりもいられないし。」
「・・・」
「うん。私、強くなる。」
「じゃあ・・・今度泣いたら、500円な。」
「何それ?」
「罰金!」
「いやだ、そんなの!」
「じゃあやっぱ、又泣くんだ。」
「泣かないけど。」
「じゃあ罰金決めてもいいじゃん。」
「・・・そっか。」亜也が笑った。

バスケ部の練習に向う亜也。
「調子は、どう?」部長が優しく声をかける。
「まだ、みんなと一緒の練習は・・。」

「池内、前より歩けなくなってねー?」
「そうみたいだな。」友達に言われ祐二が答える。
「早めに諦めさせた方が良くねー?」
「・・・ああ。」

亜也は祐二と目が合い、会釈をした。だが祐二はそれに答えず行ってしまった。

生物室のパソコンで、遥斗は脊髄小脳変性症について調べていた。

瑞生は学校から戻った弘樹に店番を頼み、亜也を迎えに行く。

校庭で父を待つ亜也。そこへ祐二がやって来た。
「この間は、ごめん。急用が出来て。」
「いえ。気にしないで下さい。」
祐二は友達の声が聞こえてくると、慌てて
「早く良くなるといいな。」といい、足早にその場を後にした。

祐二は亜也の病気のこと、というよりも、
亜也といる自分が友達にどう思われるかが気になるようですね。

瑞生に迎えにきてもらって帰宅した亜也。
「ごめんね、お父さん。お店があるのに。」
「何言ってんだよ。さ、帰るぞ。」
車に乗り込むと、生徒たちの視線が自分に集中していることに気付く亜也。

夕食後、亜也は潮香に言う。
「私・・・やっぱり明日から歩いて学校に行く。」
「でも・・・」
「自分の足で歩きたいの。
 でも辛くなったら、またタクシー使わせてね。」
「うん。わかった。
 お母さん、余計なことしちゃったね。」
「余計なことっていうか、本当に心配性なんだから。」
二人は穏やかに笑いあった。

麻生家。
遥斗の母・佐知子(兎本有紀)夫の芳文(勝野洋)に、
「遥斗がやっと勉強する気になったみたい。
 帰ってきてからずーっと勉強しているの。
 それもね、圭輔の部屋からいろんな本を持ち出したりして。」
と嬉しそうに話す。

芳文が遥斗の部屋へ行くと、遥斗は本を広げたまま転寝していた。
芳文は遥斗が広げていた本から、彼が亜也の病気について調べていたことに
気付く。

日記をつけようとするが、シャープペンを握る力をコントロール出来ず
芯が折れてしまうことに戸惑う亜也。

始業のベルが鳴り亜也は付き添うまりや早希に先に行くよう言うが、
二人は大丈夫!と笑顔で返す。
「ごめんね。」亜也がまた謝った。
授業に遅れ、友達まで先生に怒られてしまった。

『悔しくて 情けなかった
 自分ひとりで 苦しめばいいのに 
 否応なしに回りの人までひっぱりこんでしまう』

夜、一人でリハビリを続ける亜也。
亜湖はそんな姉の姿に気づいていた。

ある日、体育の授業を休んで教室にいた亜也のもとに、遥斗がやってくる。
「おう。」
亜也は遥斗から視線を外す。
「そんなしらけた目で見んなよ。
 サボリじゃなくて、腹痛だからな。
 午後から体育ってマジ勘弁してほしいよな。
 昼飯食ってすぐ、動けねーって。」
その時突然、亜也は気を失ってしまう。

遥斗と担任の西野が付き添い、亜也は病院へ運ばれた。
そこへ潮香も駆けつける。

「亜也・・・。」
「ごめんね。また心配かけちゃったね、私。」
「脱水を起こしたんです。」水野が説明する。
「なるべくね、お手洗いに行かないにしようと思って、
 最近水分を取るの控えていたの。
 私が動くとみんなに迷惑かけちゃうでしょう。
 私に出来ることって、こんなことぐらいしかないから・・・
 だから・・・」
「亜也・・・。」
「脱水を甘く見ちゃいけない。命を落とすことだってあるんだ。
 みんなに迷惑をかけるっていうけど、それが社会っていうものじゃないのかな。
 ただの一度も、誰にも迷惑をかけずに生きた人なんていない。
 君だけが特別なんじゃないはずだ。」
水野はそう言い病室を出ていった。

廊下で待っていた遥斗は、水野の診療室を訪ねていく。
「ノックぐらいしてくれないかな。」
「あいつ・・・治らないんですか?」
「前にも言ったと思うけど、医者には守秘義務があるんだ。」
「だったら質問を変えます。
 あいつの病気は治らないんですか?」
「そんなに気になるんだったら、自分で調べたらどうだ。」
「調べました。あいつの病気のことが書いてある本、何冊も読みました。」
「だったらわかるだろう。」
「・・・何年医者やってんだよ。
 病気治せないで、何が医者なんだよ。」
「医者は万能の神だとでも思っているのか?
 医者に出来ることなんて、たかが知れているんだ。」
遥斗が水野の部屋を出ると、そこに父が立っていた。

「治せない病気は、いくらでもある。
 その研究には時間がかかるんだ。 
 だからこそ、医者が必要なんだ。
 お前が医者になって、彼女の病気を治してやったらどうだ?」
芳文は遥斗と並んで歩きながらそう言う。
「簡単に言わないで下さい。」
「お前こそ、物事を簡単に考えるな。
 お前が彼女の病気のことを調べていたのは、単なる気まぐれだ。同情だ。
 その程度の感情で、わかったような口を叩くんじゃない。
 彼女にはもう、関わるな。わかったな。」
「わかりません!」
遥斗はそう言い父の前から立ち去った。

潮香は身体障害者手帳申請の書類を見詰めていた。
それに気付いた瑞生は怒って書類を取り上げる。
「何見てるんだよ!国の厄介にはならないって言っただろう!」
「厄介になるんじゃないわ。」
「そういうことじゃないか。」
「だって、亜也は厄介ものなんかじゃないでしょう?」
「お前そんなに、国から、金の援助してもらいたいのか!」
「お金のことじゃないわ。」
「金じゃなかったら一体何なんだよ。
 娘に、お前は障害者なんだぞってわざわざレッテル貼りたいのか!?」
「どうして手帳を持つことが障害のレッテル貼ることになるの?
 私は、亜也に、正々堂々と胸張って生きてほしいの。」
「お前それでも母親か!
 あいつがどんなに苦しんでいるのかわかってんのか!」
「母親だからこそ言ってるの!」
途中から聞いていた亜湖が二人に言う。
「いい加減にしてよ!
 亜也姉のこと何も話してくれないで、
 挙句、こうやってケンカ?
 私たちに知られたくないことがあるなら、徹底的に隠せばいいじゃない!
 二人とも言ってることとやってることが、おかしいよ!」
亜湖の言葉に黙り込む二人。
その時、亜也が足を滑らせ階段から落ちてきた。
「亜也!」二人が亜也に駆け寄る。
幸い怪我はないようだ。
「ごめんね。私のせいでこんなことになっちゃって。
 本当にごめん。
 みんなに嫌な思いをさせちゃってごめんね。ごめんね。」
潮香は亜也を抱きしめて言った。
「亜也・・・。もう止めよう、謝るの。
 病気になったの、亜也のせいじゃないでしょう。
 誰だって病気になったら、家族の皆が助けるの当たり前じゃない。
 もっと、堂々としてていいんじゃない?
 世の中には、いろんな人がいるわ。
 亜也みたいに、足が不自由な人、目が不自由な人。
 たとえば、弘樹みたいに、スポーツが得意な人もいれば
 亜湖みたいに絵を描くのが得意な人。
 お父さんみたいに、お豆腐を作っている人もいる。
 社会って、そんな風にいろんな人がいて成り立っているものでしょう?
 ねぇ亜也。
 身体障害者手帳って聞いたことがある?」
亜也が頷く。
「その手帳はね、身体障害者福祉法に基づいて交付されるものなの。」
瑞生が潮香を止めようとするが、潮香は続ける。
「その法律に書いてあるのはね、
 すべての身体障害者は、自ら進んで、その障害を克服し、
 その有する能力を活用することにより、
 社会経済活動に参加することが出来るように勤めなければならない。
 勤めなければならない。
 亜也は、努力することを社会から求められているの。
 障害者手帳は、亜也が、社会の一員であることの証明なの。」
潮香の言葉に涙を流しながら聞き入る亜也。
「亜湖・・・弘樹、理加。大事な話があるの。
 みんなちゃんと座って。」
3人が正座をする。
「亜也、いいよね。
 亜也が、社会の一員であるように、亜子達も、大事な家族の一員なんだし。」
亜也が頷く。
「亜也の病気はね、脊髄小脳変性症っていうの。
 運動神経が、上手く働かなくなる病気でね。
 ゆっくりしか歩けないし、まっすぐ歩けなかったり、重いもの持てなかったり。
 前のようにみんなと一緒に、お店や家のことを手伝ったりするのも
 難しいと思う。
 何をするにも時間がかかるけど、
 でも、亜也だけがはみ出したり、取り残されたりしないように、 
 力貸して欲しいの。」
「・・・わかったよ。俺、亜也姉の味方だから。」弘樹が言う。
「理加もー。」
二人の言葉に亜也はまた涙をこぼす。
「ありがとう。」と潮香。
「・・・治るんだよね・・・。
 治るんでしょ?」亜湖の言葉に黙り込む家族。
「・・・治らないんだって。今の医学じゃ、治療法はないって。」
亜也本人が言った。
「・・・急に・・・急にそんなこと言われても・・・
 どうしたらいいのかわかんない。」
「簡単なことだよ。
 困っている人がいたら、お前、手ー差し伸べるだろ。
 友達が、泣いていたら、どうしたのって、声かけるだろ?
 そういうことだよ。
 お前の心の中の、優しい気持ちを、素直に、行動にすればいいんだよ。
 な?」
「優しい気持ちなんて・・・
 そんなの私には・・・。」
「お前優しいじゃねーかよ。」瑞生はそう言い亜湖を抱きしめた。
「ウザいよ。」泣きながら父に言う亜湖。家族がそんな亜湖の言葉に笑う。

「私は、私。」亜也が微笑む。
「そうよ。何があっても、亜也は亜也。
 大事な家族なんだから。」
「私、ごめんね、じゃなくって、ありがとうって言葉を大切にする。」
「よし!それでこそ俺の子だ。」瑞生がいつものように笑った。

翌日、学校でよろけるのを支えてくれたまり、早希に、亜也は笑顔で言った。
「ありがとう。」
二人が微笑みを返した。

体育館で一人、シュートの練習をする亜也。
ボールはゴール手前で落ちてしまう。
それでも亜也の表情は明るかった。

そんな様子を見ていた遥斗。
「下手くそ!」
「麻生君!」
「何やってんだよ。試験前で、部活休みだろ?」
「麻生君こそ。」
「カメのエサやり。」
「ねぇ!片付けるの手伝って。」
「・・・ったく。」
亜也が明るい笑顔を見せた。

ボールを片付け終え、渡り廊下を歩きながら亜也が言う。
「もう一つ、お願いがあるんだけど。」
「まだあんのかよ。」
「見張っててくれないかな。私が泣かないように。」
「え?」

祐二の携帯がなる。
「あの・・・池内です。」
亜也は遥斗の前で、公衆電話から祐二に電話をしたのだった。
「あの・・・今まで、いろいろありがとうございました。
 私・・・東高に受かった時、本当に嬉しかったんです。
 先輩におめでとうって言ってもらえて。
 またバスケやるだろうって言ってもらえて。
 おそろいのバッシュの紐も嬉しかったし。
 でも・・・でも私、部活、やめることになると思うから。
 だから・・・もう先輩とは・・・。」
「わかった。
 早く元気になれよ。」
「・・・はい!
 ・・・さよなら。」
亜也が泣かずにそう言い終え、そして受話器をおいた。

「お前、冷たいな。一方的に。しかも電話でさよならかよ。
 今頃河本先輩、泣いてんじゃない?」遥斗が言う。
「そうかもね。」そう明るく言う亜也。
「嘘でも泣いてやれよ。」
「いやだ。」
「ほんっと冷たい。」
「だって・・・麻生君に罰金払うの嫌だもん。」
「セコ。」
遥斗がそう言い笑顔を見せると、亜也も笑った。

亜也のスピードの合わせてゆっくり自転車を進める遥斗。
亜也は真っ青な秋の空を見上げる。

「青空を、白い雲が、とてもきれいに流れていくのが見えた。」

『もう あの日に帰りたいなんていいません
 今の自分を認めて生きていきます』

※一部公式HPから引用させていただきました。

亜也は、なんて優しくて強いのでしょう。
祐二に罪悪感が残らないよう、自分からさよならを言いました。
潮香が家族に病気の説明をするときにも、
「治るんでしょう?」という一番答えにくい問いかけに
亜也は自ら笑顔を見せて答えました。

そして、遥斗もとても優しい。
公衆電話を切ったあと、泣くのをガマンする亜也に、
嘘でもいいから泣け、と泣くきっかけを作ってあげていましたね。
遥斗らしい優しさだなぁと思いました。

亜也の家族も友達も、愛に溢れています。
瑞生の、
「お前の心の中の、優しい気持ちを、素直に、行動にすればいいんだよ。」
という言葉。
きっと亜湖は自分を冷たい子だと思っていたのでしょう。
「お前優しいじゃねーかよ。」と父親に抱きしめられ嬉しかったでしょうね。
次週、そんな亜湖が彼女らしい優しさを見せてくれるようです。

障害者手帳について、深く考えたことがありませんでした。
潮香の、
「すべての身体障害者は、自ら進んで、その障害を克服し、
 その有する能力を活用することにより、
 社会経済活動に参加することが出来るように努めなければならない。
 努めなければならない。
 亜也は、努力することを社会から求められているの。
 障害者手帳は、亜也が、社会の一員であることの証明なの。」
という言葉には、考えさせられました。

そして、障害を一つの個性として考える。
こう考えられるようになるまで、潮香だってすごく時間がかかったことと
思います。
長男、次女、夫の「個性」を上げながら亜也に言う言葉には
説得力があり、愛があふれていました。

『たったひとつのたからもの』や『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ』などを
見たときも深く考えさせられました。
『1リットルの涙』でも、もう一度しっかりと考えていきたい。
今までは、生きていられることの幸せについて考えさせてくれましたが、
次週予告の潮香の言葉に、社会の一員として自分に何が出来るのか、
見つけられるかも、と思いました。

ずっと、「ごめんね。」と繰り返していた亜也がそんな自分を改め
友達に「ありがとう。」と言い見せた笑顔、とても綺麗でした。

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