Sunday, December 2, 2012

1リットルの涙 - 第 9 話


『今を生きる』

亜也(沢尻エリカ)は、養護学校で寄宿生活を送ることになった。
そんな亜也の大きな助けになるのが電動車椅子だった。
「風が気持ちい!」
亜也の笑顔に嬉しそうに微笑む潮香(薬師丸ひろ子)。

「歩けるところはなるべく自分で歩くって言ってたけど、
 一人で自由に動ける喜びは大きいみたい。
 養護学校へ持っていけば、行動範囲も広がると思う。」
潮香はそう言うが、父親の瑞生(陣内孝則)は、
亜也を寄宿生活させることに対して、寂しさを隠せない。
「あいつ、案外寂しがりやだろ。」
「大丈夫よ。・・・大丈夫!
 だって・・・あの子が自分で決めたことだもの。
 私たちが笑って送り出さないでどうすんのよ。」
潮香の言葉に瑞生もそうだな、と頷いた。

瑞生は配達の帰りに偶然会った遥斗(錦戸亮)を家に連れ帰る。
「何で俺が。」と呟きながら大豆を運ぶのを手伝う遥斗。
「新作のおぼろ豆腐、食わしてやろうと思ってな。」
「久しぶり。」少し照れくさそうな亜也と遥斗を
「池内亜也!」
亜也が東高を去る日、遥斗が呼びかけてくれたことを冷やかす瑞生。
あの時歌ってくれた『3月9日』を嬉しそうに歌いながら
瑞生は遥斗の腕を取り、部屋の中へつれていく。
亜也はそんな二人を見て嬉しそうに笑っていた。


その日は、小学校に入学する理加(三好杏依)の入学祝いパーティー。
そしてその翌日から、亜也は寄宿舎生活を送ることに鳴っていた。
「お父さんのことが恋しくなったら、すぐに言うんだぞ。
 30秒で迎えにいくからな!」
「大丈夫。」
「いい加減子離れしなよ、このストーカー親父!」
「この、バカ娘!」
楽しそうな家族の様子を微笑んで見つめる遥斗。
「お母さんね、亜也にも入学祝用意したんだ。」
潮香が用意したもの。それは携帯電話だった。
子供に携帯なんて10年早い、と言う瑞生に
「亜也はこれから離れた場所で生活するのよ。
 何かあったら、すぐに連絡取れるじゃない。
 亜也がお父さんと話したくなったら、好きな時に家に電話出来る!」
「大事に使いなさい。」その言葉で瑞生も納得する。
亜湖と理加が自分も欲しいと言うが、300万年早い、と却下。
「何番?」遥斗が聞くと、
「色気づいてんじゃねー!
 亜也、いいか?こいつに番号だけは教えんなよ!
 とんでもねーヤロウだ。」と瑞生。
二人の顔を見比べて笑う亜也。
瑞生に怒られながらも遥斗はどこか楽しそう。

庭でガンモの相手をしながら語る二人。
「ごめんね。お父さん相変わらずで。」
「もう慣れました。」
「東高も明日始業式でしょ?」
「うん。」
「じゃあ明日から本当に学校別々になっちゃうんだ。」
「なに?寂しいの?」
「そういうわけじゃないけど。」
「学校の皆に、お前が携帯持ったって、宣伝しといてやるよ。
 何番?」
「色気づいてんじゃねーよ!
 なーんてね。」亜也が笑った。

「春がきた。
 誰もが心を弾ませる季節なのに、
 今の私には、養護学校のコンクリートの壁が
 目の前に立ちふさがっているように見える。
 それでも季節は何も知らないような顔をして、
 私の前を通り過ぎていく。」

養護学校初日、亜也は、不安で押しつぶされそうだったが、努めてそれを
表に出さないようにしていた。
亜也と潮香を出迎えたのは、担任のまどか(浜丘麻矢)だ。
まどかは、自分のことは出来る限り自分でやるのがこの学校のルール、と
亜也に告げると、校内を案内し、ボランティアでこの学校を手伝っている
高野(東根作寿英)らを紹介する。
掲示板に飾られた絵や習字の作品に気付く亜也。
「これは、みんなこの学校の生徒の作品です。
 何か出来ることを見つけて、それぞれ自分なりに頑張っているんですよ。」
まどかがそう言った。

「家を長く離れるのなんて初めてなもので、
 慣れないこともあると思いますが、
 先生、よろしくお願いいたします。」
潮香がまどかに深く頭を下げる。
「じゃあね。」母に笑顔を見せる亜也。
「大丈夫?」
「大丈夫!」
「そう・・・。じゃ、頑張ってね。」
亜也は微笑み、亜也に手を振り背を向けた。

後ろを振り返りつつ学園を後にする潮香は泣いていた。

亜也が生活する部屋はふたり部屋。
ルームメイトは、同じ病気と闘うひとつ年上の少女・明日美(大西麻恵)。
明日美は花壇で花に水を撒いていた。
「待ってたよ。
 池内亜也さんだよね。
 私も、おんなじ病気。
 そっちでも、私が先輩だから、
 何でも、相談して。」
明日美はそうゆっくり挨拶したあと、電動車椅子で亜也に近寄り握手する。
「綺麗でしょ、ここの花壇。
 私、水と、お日様の光浴びて、キラキラしてる花が、
 一番好き!」
亜也は、養護学校で生活する明日美たちの意外な明るさに戸惑う。

自宅では、瑞生が電話の前でそわそわ。
亜也のことが気になってしかたがない。
「そんなに気になるんだったらかけてみればいいじゃん。」
亜湖(成海璃子)に言われ、
「ああ!気付かなかった。
 やっぱりかけるべきか!
 お父さん一番乗り♪」
待ってました、と電話をかける瑞生。

亜也の携帯電話が鳴る。遥斗からだ!
「あ、俺。」
「麻生君?」
「特に用はないけど、
 誰からも電話が来てなかったらかわいそうだなーと思って。」
「当たり!麻生君が第一号!」
「あれ?親父さんは?」

瑞生の握り締める電話口から話中の音が鳴り響く。
「・・・誰だ?誰と話してるんだ!?」
「そんなの決まってんじゃん。」
「え!?」
「だから!麻生さんと話してるんだってば。」
「なにーー!?
 だーかーらー俺は携帯はダメだって言ったんだー!」
瑞生の小言が始まる前に席を立つ潮香だった!
瑞生はその後もリダイヤルを続けた。

亜也にクラスの様子を伝える遥斗。
「耕平?相変わらず。
 杉浦、耕平のどこがいいんだろうな?全くわかんない。
 まあ、池内の話なんてもう誰もしてねーよって感じ。」
遥斗の父・芳文(勝野洋)は息子の部屋から聞こえてくる楽しそうな
声に、複雑な表情を浮かべていた。

遥斗と楽しく喋ったあと、亜也は明日美の布団を敷く姿を少し見つめる。

「正直、まだ養護学校の生徒だという実感はないけれど、
 頑張ろう。
 今日からここが私の居場所なんだから。」

それから2ヵ月後、潮香は、常南大学医学部付属病院を訪れ、
亜也の担当医・水野(藤木直人)に会う。
「寄宿舎の生活にも慣れてくれたようで、安心しました。」
ほっとした表情で水野に報告する潮香。
だが水野は、亜也の検査結果があまり良くないことを潮香に告げる。
データを見せながら水野が説明する。
「病状としては、次の段階に入っているとお考え下さい。
 今後、予想される症状として、飲み込む力が低下し、
 食事も、固形物は難しくなります。
 誤嚥の危険も増します。
 滑らかな発生が難しくなって、言葉が、聞き取りにくくなっていくことが
 予測されます。
 四肢の機能が低下し、転倒が大きな怪我につながるケースも考えられますし、
 風邪を引いただけで、肺炎のような合併症を引き起こすこともあります。
 養護学校の先生方も注意していらっしゃると思いますが、
 大事に至らぬよう、ご家族で、見守ってあげて下さい。」
水野の言葉に呆然としながらも、潮香はしっかりと受け止めた。

亜也は明日美が食事中苦しそうに咳き込む姿や、
ハーモニカで発声のリハビリをする姿を不安そうに見つめる。

リハビリの時間、ボールを手にまどかを待つ亜也。
明日美が亜也に言う。
「まどか先生と、高野さんって、付き合ってるんだって。
 いいなー!いつも、彼氏と一緒で。」

「及川明日美さん。
 笑顔が可愛くて素敵な人。
 なのに私は、どうしても彼女の姿に、
 症状が進んだ自分を見てしまう。」

亜也にとって、ボールのリハビリはバスケ部で活躍していた自分を
思い出させる辛いものだっただろうな・・・。

亜也は、なるべく車椅子を使わずに歩く努力をしていた。
洗濯をしていて授業に遅れた亜也に、まどかが言う。
「昨日も遅れたわね。
 移動は電動車椅子を使ったらいいんじゃないかしら?」
「でも、なるべく自分の足で歩きたくって。」
「亜也ちゃん。もっと生活のペース配分を考えてね。
 どこまでは自分でやって、どの程度の補助をしてもらうか、
 自分の中で折り合いをつけることも大事よ。」
「でも・・・。」
「周りのペースにどうやって合わせていくか考えてることも、
 必要だと思わない?」
「・・・はい。」

「先生の言うことはわかるけど・・・怖い。
 車椅子に頼るようになったら、もう歩けなくなっちゃうような
 気がして・・・。」

亜也は必死に一人でリハビリを続ける。

数ヵ月後。
遥斗は、耕平(水谷百輔)、慶太(橋爪遼)とともに文化祭の準備のために
図書館を訪れる。
生物部のテーマは『海の七不思議』。
その資料を探している時、遥斗は、熱心に受験勉強をしている亜湖に
出会った。

「受験勉強?」
「うん。亜也ネェに約束しちゃったし、
 せっかくだから東高でも受けてやろうかなーと思って。 
 まあダメ元だけどね。」
遥斗は亜湖に間違っている場所を教える。
「あーもう・・・。
 やっぱ奇跡でも起こらない限り東高無理かなー。」
「お前、ほんとにあいつの妹?」
「そういうこと言わないでよ。」
「ごめん。」
「でも亜也ねぇの真面目さが少しでも私にあればなー。
 亜也ねぇ休みの日に帰ってきても、最近あまり元気ないの。
 養護学校でも頑張りすぎてるんじゃないかなー。」

亜也の携帯が鳴る。着信を見て微笑む亜也。
「麻生君?」
「今日、お前の妹と図書館で会ったからさ。
 その、どうしてるかと思って。」
「元気だよ。麻生君は?」
「まあ、そこそこ。」
「学校はどう?」
「今は毎日、文化祭の発表の準備。」
「もうそんな時期かー。
 何の発表?」
「海の七不思議。
 ウミガメの涙とか、まんぼうの昼寝とか、
 人間には聞こえないイルカの声とか。」
「へー。なんか面白そう!」
「今度の休み、暇?」
「え・・・うん。」
「水族館行くんだけど、お前も行くか?」
「・・・お母さんに相談してみるね。」
「無理するなよ。」

「デートの約束だ。彼氏?」明日美が冷やかす。
「違います。高校の、クラスメート。」
「違うんだ。いつも携帯そばに置いて、鳴るの、待ってるみたいだから。
 どんな人?」
「うーん。
 最初に会った時はね、変なヤツって思ってて、
 口は悪いし、態度は大きいし、すぐに嘘つくし。
 でもね、すごく私が辛い時は、
 なぜかいっつもそばにいてくれて。
 それにね、不思議なんだけど、
 麻生君と一緒にいるときだけは、私いつの間にか自分が病気だってこと、 
 忘れてるんだー。」
「ふーん。なーんか、のろけられちゃったなー。」
二人が笑いあう。

遥斗の部屋へ父がやって来た。
遥斗の机の上にあった第2回進路希望調査を手に取る芳文。
「もう進路は決めたのか?」
「いえ。」
「親や親戚に合わせることはない。
 しっかり考えて、自分の好きな道に進めばいい。
 しかし、池内さんのことは、別だ。
 あの子がこれから先、どうなっていくか、お前もわかっているだろう?」
「寝たきりになる子と、関わるなと言いたいんですか?」
「そうじゃない。
 どれだけの覚悟があって、あの子と関わっているんだと聞いているんだ。
 お前、あの子のこと好きなのか?
 これから先も、何年も何十年も、あの子の側についていてやると
 約束でもしているのか?」
「約束なんて・・・そんな・・・。俺たちは・・・」
「ただの友達か?
 でもな、症状の進んだ彼女が、お前を必要としたらどうする?
 血のつながった家族だって、介護に疲れきってしまうこともあるんだ。
 並大抵のことじゃない。
 今が楽しいからそれでいい。
 そんな自分勝手な考えでは済まないんだ。
 よく考えなさい。」
父は穏やかにそう言い、部屋を出ていった。

養護学校まで迎えに行く遥斗。
「麻生君!」
「すっげー久しぶり。」遥斗の顔がほころぶ。
そこへ明日美がやって来た。
「こんにちは。」
「どうも。」
「及川、明日美です。麻生君、だよね?
 どんな人か、会いたくて。
 亜也ちゃん、いっつも、麻生君の話ばっかりするから!」
「ちょっとぉ!」

「明日美さん、同じ部屋なんだ。」
「へー。」
「同じ病気なの。」
「・・・」
「明るい人でしょ?」
「そうだな。」笑顔で答える遥斗。

=水族館=
「色んな生き物がいるね。」
「うん。」

「これがはりせんぼん?」
「普段はこういう形。
 攻撃されそうになると、トゲを立てて身を守るんだ。
 ほら、こんな風に。」
「へー。なんか麻生君みたいだね。」
「・・・」

「こっちは?」
「クマノミ。
 一つのいそぎんちゃくに、家族で住んでいるんだ。」
「へー。可愛い家だね。」
「なんか、お前んちみたいだな。
 んで、このちょこまかしてるのが親父さん!」
亜也が笑う。

イルカの泳ぐ姿を見つめる亜也。
「気持ち良さそう! 
 でも・・・
 どうして水槽にぶつからないで、こんなに上手く泳げるんだろう。」
「イルカの声。」
「声?」
「人間の耳には聞こえない、超音波の声を出して、
 跳ね返ってきた音で、周りにある物の位置を確かめてる。」
「そうなんだ。」
「その声を使って、遠くにいる仲間のイルカと会話をしているらしい。」
「ふーん。私たちには聞こえない、秘密のおしゃべりか。
 聞こえないかなー。」
ガラスに耳を当て微笑む亜也。
「人間も、遠くにいる人と、そんな風に喋れたらいいのにね。」
そんな亜也を見つめる遥斗。
「ちょっと待ってて。」

遥斗は亜也に、イルカの携帯ストラップをプレゼントする。
「イルカほど便利じゃないけど。」
「ありがとう!」
「お茶買ってくるから。」

亜也が一人でいるところに、親子連れがイルカの水槽の場所を尋ねる。
「・・カンひろばの向こうに。」
「ん?」
「・・カンひろば。」
ちゃんと喋れない自分に焦る亜也。あっち、と指を差して場所を伝えた。

「どうした?」遥斗が戻ってきた。
「・・・ううん。」亜也はそっと携帯を握り締める。

「今日はありがとね。」
二人の乗るバスがやって来た。
遥斗は急ごうとするが、亜也のペースに合わせて歩く。
バスは行ってしまった。
「タクシーにしよう。
 悪い。俺がちゃんと時間調べなかったから。」
タクシーを止めようとするが、停まってくれない。
(空車じゃなかったのかも。確認出来ず)

雨が降ってきた。
雨宿り出来そうな場所へ向う二人だが、亜也の車椅子が段差にはまってしまう。
遥斗は自分の上着を亜也にかぶせ、車椅子を押して急ぐ。

亜也が自宅に連絡を入れ、迎えの車で家へ戻る。
「亜也!!」
「私全然大丈夫だから。」亜也が両親に答える。
「あの、俺。」
「何してんのよ!風邪ひいたらどうすんのよ!」
潮香が遥斗を怒鳴りつける。潮香の剣幕に驚く家族。
「すいません。」
すぐに亜也を着替えさせよう、と瑞生が言う。
「とにかく、麻生君も上がって。」
潮香もそう言い部屋へ入っていった。
亜湖は心配そうに遥斗を振り返るが、遥斗は暫く雨の中呆然と
突っ立っていた。

「亜也は?」瑞生が聞く。
「大丈夫。眠っちゃった。電気毛布入れておいたから。」と潮香。
「僕の責任です。本当に、すみませんでした。」
「さっきはごめんなさいね。怒鳴ったりして・・・。」
「ほら、もういいから、足崩せよ。」
「顔を上げて、麻生君。」
遥斗がゆっくり顔を上げる。
「麻生君には、本当に感謝しているのよ。
 亜也のこと、気にかけてくれて、
 こんな風に、誘ってくれて。
 亜也も、すごく喜んでいると思う。
 でもね、今の亜也は、色々、気をつけなくちゃいけないことが多くて。
 元気そうに見えるかもしれないけど、
 身体の調子も、そんなにいいわけじゃないの。
 軽い風邪引いただけでも、合併症を起こして、
 肺炎を起こしてしまうかもしれないの。
 普通の人には小さなことでも、亜也にとっては、
 命取りになることがあるの。
 楽しいだけじゃいられないの。
 もう、昔のようにはいかないの。」
「まあ、今日のところは、無事だったんだし、 
 亜也のことをお前ひとりに任せたのは俺たちなんだからさ。
 お前が悪いわけじゃないんだからさ。」
「すいません・・・。すいませんでした・・・。」
三人の会話を布団の中で聞いていた亜也は、つらそうな表情で・・・。

『どれだけの覚悟があって、あの子と関わっているのかと聞いているんだ。 
 今が楽しいからそれでいい。
 そんな自分勝手な考えでは済まないんだ。』
帰り道、父の言葉を思い出しながら雨の中を歩く遥斗。
そんな遥斗の携帯が鳴る。
「今日は・・・ごめんね。
 色々迷惑かけちゃって・・・。
 さっき、お母さんが言ってたこと・・・
 あのね、」
「ごめん。雨で、良く聞こえない。」
「・・・やっぱり、聞こえにくいかな。」
「そんなことないから!大丈夫だから。」
「もう、前みたいにはいかないんだね。
 車椅子、押してもらうことはあっても、
 もう、一緒には歩けないし。
 雨に濡れたくらいで、大騒ぎさせちゃうし。
 きっと、そのうち話せなくなって、
 電話も出来なくなっちゃうんだろうね。
 もう、ゼンゼン違うね。東高にいた頃とは・・・。
 麻生君とは、もう、住む世界が違っちゃったのかも。」

電話を切ったあと携帯を握り締めて号泣する亜也。
ストラップのイルカが揺れていた。

雨の中呆然と立ち尽くす遥斗。
遥斗の携帯にも、同じイルカのストラップが悲しげに揺れていた。

水野のもとで、発声のリハビリを受ける亜也。

「発声のリハビリは、寄宿舎でも根気良く続けてね。
 実生活で不便、感じてる?」
「声が、出しにくくなったような気がします。」
「そっか。
 でも、今だってこうして僕と話してるだろ。
 話すときに大切なのは、伝えたいというこちら側の気持ちと、
 受け取りたいという相手側の気持ちだ。
 伝えることを諦めちゃいけない。
 聞く気持ちがある人には、必ず伝わるから。」
水野の言葉に頷く亜也。

遥斗は図書館で再び亜湖に会う。
「お前よく頑張んな。
 そんな必死になるほどいい高校でもねーぞ。」
「私ね、ずっと思ってたんだー。
 なんで亜也ねぇなのって。
 病気になったのは私じゃなくて、
 何で、誰にでも優しい亜也ねぇなのって。
 神様は意地悪だから、亜也ねぇみたいな人を病気にしたのかな。
 だったら、私が健康でいることにも、何か意味があるのかな。
 私、亜也ねぇの変わりに東高を卒業したい。
 亜也ねぇの叶わなかった夢だから。
 私なんかが亜也ねぇの為に出来ること、
 今はこれくらいしかないんだけどね。
 出来ることあるのに、しないでぼーっとしているなんて、
 そんなの私、絶対嫌だから。」
「お前さすがだな。
 さすが、あいつの妹だな。」
遥斗の言葉に亜湖が微笑む。

友達と一緒に下校する遥斗は急に足を止め、行くところがある、と
逆方向へと走っていく。

向かった先は養護学校。
亜也は花に水を上げていた。
「久しぶり。」
「・・・」
「電話、出来なくて、直接来た。」
「・・・」

『聞く気持ちのある人には、必ず伝わるから。』
亜也は水野の言葉を思い出し、そして勇気を出して言葉を出す。
「今日ね、夢、見たんだ。」
「夢?」
「うん。
 いつも見る夢の中ではね、
 歩いたり、走り回ったり、自由に動けるの。
 初めて麻生君と出会ったころみたいに。
 でもね、今日の夢は、違った。
 私・・・車椅子に、乗ってた。
 夢の中でも、私は、 
 身体が、不自由、だった。
 自分の体のこと、認めてるつもりでも、
 心の底では、認めてなかったのかも。
 これが、私なのにね。」
「俺の今の気持ち、言っていいか?
 ずっと先のことなんて、わかんない。
 けど、今の気持ちなら、100%嘘が無いって、
 自信持って言える。
 俺、お前が話すなら、どんなにゆっくりでもちゃんと聞く。
 電話で話せないなら、こうやって直接会いに来る。
 俺イルカじゃないし、お前もイルカじゃないし。
 お前が歩くなら、どんなにゆっくりでも、一緒に歩く。
 今は、頼りにならないかもしれないけど、
 いつか、お前の役に立ちたい。
 昔みたいにいかなくても、そういう気持ちでつながっているから、
 住む世界が違うとは思わない。」
「・・・」
「俺・・・お前のこと・・・
 好き。・・・なの・・・
 好きなのかも・・・。多分。」
「・・・ありがと。」
亜也が嬉しそうに涙をこぼしながら答えた。

『朝の光』
 この学校の玄関前に
 壁が立っている。
 その壁の上に朝の光が白んで見える。
 いつかは 見上げて
 そっとため息をついた壁だ
 この壁は 私自身の障害
 泣こうがわめこうが 消えることはない 
 けれど この陽のあたる瞬間が
 この壁にもあったじゃないか
 だったらわたしにだって
 見つけ出そう
 見つけに行こう

第3回進路希望調査書に記入する遥斗。
『常南大学医学部』と書いた。

亜也の詩が掲示板に飾られる。
「こういう視点、持ってる子なのよね。」まどかが微笑む。

家族が亜也を訪ねてきた。
「みんなどうしたの?」
「亜也にちょっと用事があってね。」
「いの一番に、亜也に知らせたくてな。」
「奇跡が起こったよ!」
東高の制服に身を包んだ亜湖が姿を見せる。
「亜也ねぇ!私受かったよ!
 亜也ねぇの着てた制服で、代わりに東高卒業するからね!
 安心して。亜也ねぇの夢、私が引き受けたから。」
亜也が嬉しそうに頷いた。

「足を止めて、今を生きよう。
 いつか失ったとしても、諦めた夢は、
 誰かにゆだねたっていいじゃないか。」

『人は過去に生きるものにあらず
 今できることをやればいいのです』



東高を退学した亜也。
エンディングも東高の校舎ではなくなりました。
変わりに、養護学校での写真。
そして草花や水族館の生き物の、美しい写真、空の写真が
使われるようになりました。

つい先日原作を読み終えました。
エンドロールでも使われていますが、亜也さんは必死にノートに
気持ちをぶつけ、答えを見つけ出そうとしているんですね。

『マ行、ワ行、パ行、ンが言いにくくなってきた。
 声にならず空気だけが抜けていく。
 だから相手に通じない。
 
 最近、独り言が多くなった。
 以前は嫌だったけど、口の練習になるから
 大いにやろう。
 しゃべることに変わりはない。』

水族館でのデートは、養護学校に入ってから、もう4ヶ月以上
経っていました。
その間、亜也と遥斗はどの程度やり取りをしていたのでしょう?
会うのは、久しぶりのようでした。
遥斗も受験生ですし、それが自然なのかな。
それとも遥斗自身、どう亜也と付き合うべきか、迷っていたのでしょうか。

父の言葉を遥斗は反発することなく、真剣に受け止める遥斗。

明日美を見つめる遥斗の表情。
明日美が自分と同じ病気だと聞いた時の表情。
笑顔の中に複雑な思いが見えたように思います。
それでも、明るい人でしょ?と聞かれ「そうだな。」と答えた遥斗の
笑顔に、曇りはなかった。

遥斗は二度目に亜湖と図書館で会った時の言葉に聞き入っていました。
亜湖と遥斗は似たもの同士。
出来のいい姉、兄にコンプレックスを持ち、
そして亜湖は姉が病気に、遥斗は兄を事故で失った。
姉の夢を受け継ごうとする亜湖の姿に、
将来に関して卑屈になっていた遥斗も影響されたようです。

そして、遥斗の告白。
亜也のこと、将来のこと。
遥斗は父や亜湖の言葉に、考え、きっと悩み迷い、
そして亜也を支えていこうと答えを出した。
あの優しい潮香に怒鳴られたことも大きかったはず。
生半可な気持ちじゃありません。
本当に立派でした。

姉の夢を受け継いで、見事東高に合格した亜湖。
正直、亜也はどういう気持ちなんだろう、と考えました。
寂しくはないのかな・・・。嫉妬したりしないのかな・・・。

それでもそのあとの亜也さんの言葉。
「足を止めて、今を生きよう。
 いつか失ったとしても、諦めた夢は、
 誰かにゆだねたっていいじゃないか。」
自分の小ささと、亜也さんの大きさにはっとしました。

次週予告での結婚式は、まどか先生!?
「私、結婚出来るのかな。」
これは原作で担当の先生にぶつけた言葉です。
麻生君への別れの手紙・・・。
次週も辛い展開となりそうです。
残り、2話です。

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