Sunday, December 2, 2012

1リットルの涙 - 第 4 話


『二人の孤独』

亜也(沢尻エリカ)は、常南大学医学部付属病院の神経内科医・水野
(藤木直人)から、脊髄小脳変性症であることを告知される。

病院の帰りのタクシーの中、亜也は何も語ろうとせず。
母親の潮香(薬師丸ひろ子)も瑞生(陣内孝則)も、娘に声をかけることが
出来なかった。

家に戻った亜也は、潮香たちに着替えてくるよう言われ、部屋に上がったが
食事が出来ても降りてこない。

潮香が様子を見にいき、亜也に優しく声をかける。
「お母さん、私頑張るから。
 だから大丈夫だよ。」健気にも笑顔を見せる亜也。
「・・・そうね。水野先生がおっしゃったように、希望持ってやっていこうね。
 難しい病気だけど、出来ることはいっぱいあるんだから。
 亜也が頑張っているうちに、特効薬や、治療法が見つかるかもしれない。
 ねっ!」
母の言葉に無言で頷くいたあと、亜也は本音を漏らす。
「・・・でもやっぱわかんないよ。
 何で私なの?
 ねぇ何で。どうして病気は私を選んだの?
 ねぇお母さん。私まだ15だよ。
 こんなのってないよ。ひどいよ。神様は不公平だよ。ねぇ・・・。」
「亜也・・・ごめんね・・・。
 お母さん、変わって上げられなくて、ごめんねーーー。」
潮香が泣きながら亜也を抱きしめると、亜也は声を出して泣き続けた。


その日の夜。
「本当に、知らせて良かったと思う? 
 病気のこと、本当に受け止められるまで、あの子すごく苦しむと思う。
 やっぱり、もっと様子を見てからにすれば、」潮香が瑞生に聞く。
「お前がそんなことでどうすんだよ!
 あいつはそんなヤワじゃねーよ。
 俺とお前の子供だぞ。
 あいつが、折れそうになったら、俺たちが全力で支えてやりゃいいんだよ。
 俺は諦めないぞ。
 世界中の病院回ってでも、どんなことしても、亜也治してくれるとこ、
 探してみせるからな。」
潮香はそんな夫の言葉に励まされ、笑顔で力強く頷いた。

あくる朝、「寝坊しちゃった!」といつもの笑顔を家族に見せる亜也は、
何事もなかったかのように元気に登校し、潮香や瑞生を驚かせる。

登校途中、いつもの道を歩く亜也。周りの景色や人々を見ながら心の中で呟く。
「昨日と同じ景色を見て、昨日と同じ道を歩いているのに、
 私の世界はまるで変わってしまった。
 きっともう、あんな風には笑えない。
 昨日までの私は、もうどこにもいない。」

期末試験を終え、まり(小出早織)と早希(松本華奈)は亜也に来年は受験なので
今年の夏は遊ぼうと話しかける。
どこか元気のない亜也の背中を、遥斗(錦戸亮)は見つめていた。
生物室でパソコンを使っていた亜也。その後遥斗は亜也が何を調べていたのか
気になり履歴を見てみたが、何も残っていなかった。
履歴、残っていなかったんですね。
てっきり、ここから遥斗は病気に気付くのだと思っていました。

ぼんやり亜也の背中を見つめる遥斗に、富田圭子(葵)が声をかける。
夏休み別荘に遊びに来ないかと誘うが、生物部の活動があるから忙しいと
遥斗は断る。

放課後、バスケット部の練習に出た亜也は、思ったように体を動かすことが出来ず、
コーチの西野(佐藤重幸)に怒鳴られてしまう。
自分が思った場所にボールをパスすることも出来ず、亜也は交代させられてしまう。
まりや早希は、そんな亜也のことを心配そうに見つめていた。
大好きなバスケットボールが出来なくなる恐怖。
それを亜也は少しずつ実感していくのですね・・・。

同じころ、潮香は、水野の下を訪れていた。
「告知は、思ったより、しっかりと受け止めてくれたみたいです。」
「本当に辛いのは、これからですよ、お母さん。
 亜也さんはこれから徐々に、しかし確実に、
 体のコントロールを失っていきます。
 今まで出来ていたことが、少しずつ出来なくなっていくでしょう。
 できれば、早急に入院していただいて、
 薬の効果や、リハビリの方法を確認したいと思っています。
 検討しておいて下さい。」
潮香は水野の言葉に力なく頷いた。

「こんな風に毎日少しずつ、何かができなくなっていくの?
 目を閉じて、次の日が来るのがこわい。
 朝が来て、悪くなっているかもしれないと思うのが怖い。
 時間がたつのが、こわい。」
その日亜也は、そうノートに綴った。

まりは合唱コンクールの後、恩田耕平(水谷百輔)に告白されて
付き合い始めた、と亜也と早希に報告する。
「亜也はどうなの?」
亜也の憧れのバスケット部の先輩・祐二(松山ケンイチ)との
その後を聞く二人。

その時、その祐二が教室に亜也を訪ねてきた。
「終業式の日の、花火大会なんだけど、
 良かったら、一緒に行かないか?」
「え!?」
「それからあの、8月7日の日曜日も空けておいてもらえるかな?
 実はさ、その日って、俺の誕生日なんだ。
 ・・・だめかな?」
「そんな!ダメじゃないです。」笑顔で答える亜也。
「良かった!朝比奈動物公園に行こうと思ってるんだけど。」
「はい!」

祐二が帰ったあと、まりたちが、きっとその日にコクるつもりだと
亜也を冷やかした。それを聞き、亜也は複雑な表情に・・。

潮香は亜也のそんな様子に、何かあったか尋ねる。
「今日ね・・・河本先輩に、花火大会に誘われちゃった。」
「え!?」
「先輩の誕生日にも、動物園行こうって。」
「そっかぁ!それじゃあぼーっとしちゃうのも無理ないか。
 は、でもお父さんが聞いたら大変だね。
 付いていくなんて言い出すかもよ。」潮香が嬉しそうに言う。
「どうやって断ったらいいのかな。」
「え!?」
「だって、私病気になっちゃったでしょ。
 だから、先輩にも、迷惑かけちゃうかも・・・。」
「・・・そんなのおかしいよ。
 亜也は、神様は不公平だって言ったけど、 
 不公平なことをしようとしているのは亜也なんじゃないの?」
「え?」
「高校生だもん。
 好きな人と一緒に、花火大会ぐらい行くでしょう?
 好きな人と一緒に、誕生日を過ごしたいって思うでしょう? 
 それって、誰でも、普通に思うことだよね。」
「でも、」
「でもじゃないよ。
 病気のせいにして、出来ること自分から投げ出すなんて、
 神様は不公平だなんて言った亜也がやることなの?
 言ったよね。頑張るって。
 亜也、お母さんにそう言ってくれたよね。」
母の言葉に頷く亜也。
「浴衣、着せてね。花火大会の日。」亜也がやっと笑顔を見せた。
潮香が笑顔で頷く。
「髪もアップにしてね。」
「オッケー。
 浴衣着て、髪もアップにしたら、先輩きっとびっくりするわよ!」
二人は嬉しそうに笑い合った。

カレンダーにデートの日を印を付けながら、亜也は思う。
「お母さんの後光が見えてきたような気がする。
 私は、自分を信じて、行動しよう。」

翌日から夏休みを控え、生徒達が大喜びする中、
亜也も友達と嬉しそうに笑い合った。

祭りの日、潮香に浴衣を着せてもらい、亜也は嬉しそうに出かけていった。
「なあ。亜也、大丈夫かな。」娘を送り出したあと、瑞生が潮香に言う。
「うん。お友達もみんな付いてるし。」
「でも、亜也のあんな顔、久しぶりに見たな。」
「普通の女の子がやりたいと思うことは、亜也には出来るだけやらせてあげたい。」
「ああ。」

「へー。女子って着物着ると雰囲気変わるんだな。」祐二が亜也の浴衣姿にそう言う。
「着物じゃなくて浴衣です。」
「そっか。」笑いあう二人。
祐二は亜也と手をつなぎ、歩き出した。

祭り会場で友達や部員に冷やかされながらも、二人はとても幸せそうだった。
祭り会場には、遥斗が圭子と来ていた。
亜也の妹・亜湖(成海璃子)は潮香が着せてくれようとした浴衣を着ずに
友達のマミ(志保)と一緒に祭りに向かった。
亜湖は家族みんなが亜也をちやほやする様子にふてくされているのだ。

信号が青になり、祐二が亜也の手を取り歩き出す。
一瞬、後ろに倒れそうになる亜也。
なんとか足を動かし踏みとどまるが、逆に前方に頭から倒れ落ちてしまう。
亜也の頭から血が流れ出る。
祐二が慌てて抱き起こす。
人の波を書き分け、亜湖も亜也にすがりつく。

亜湖が待つ病院に、潮香と瑞生が駆けつける。
出血の割りに、額の怪我はそれほど酷くなく、レントゲンやCTの検査結果も
異常はなかった、と水野が説明する。
「この病気は、人によって症状や進行の程度が大きく違いますが、
 亜也さんの場合、進行が早いようです。
 なるべく早く、亜也さんに適した薬やリハビリ方法を見つける必要が
 あります。
 やはり、夏休みを利用して、検査入院をされてはいかがでしょうか?」
「それで、少しでも、病気の進行を食い止めることが出来るんですか?」
瑞生が尋ねると、水野は
「個人差があるので、実際に試してみないと何とも言えません。」と答えた。

家に戻り入院の準備をする潮香。
「あいつ、あんなに夏休み楽しみにしていたのにな。」瑞生が呟く。
心配する弟の弘樹(真田佑馬)と妹の理加(三好杏依)に、
「少し長くなるかもしれないから、いい子で待っていようね。」と潮香が言う。
瑞生に促され、二人は寝室へ戻っていく。

「亜也姉、変だったよ。
 普通、あんな転び方する?
 顔から真っ直ぐ、それも二度目だよ。
 絶対おかしいよ。」
「あいつほら、生意気にデートなんかしてやがったからさ、
 きっと浮かれすぎて、周りが目に入らなかったんだよ。
 ドジなやつだ。」瑞生はそう言い席を立った。
そして工場に行き、ぶつけどころのない怒りを抑えきれず、一人涙した。
いつも潮香や亜也を力強く励ます瑞生の、こういう表情には
胸が締め付けられます。

水野が亜也にリハビリ担当の田辺医師(小林正寛)を紹介する。
「一緒に、がんばろうね。」田辺が亜也と握手した。

病室を出たあと、田辺は水野に、15才の少女への告知は早かったのではないかと
疑問をぶつける。
「遅らせたら何かいい影響があるのか?
 あの子は自分の病気に気付いていた。
 生半可な返事で、すぐ消えるような幻想は持たせない方がいい。」
「だけどな、言われた方のショックも考えてみろよ。」
「俺は病気に立ち向かう為に告知を選んだんだ!
 将来有効な新薬や、治療法が見つかる可能性はゼロじゃない。
 それまで出来るだけ、病気の進行を遅らせたいんだ。
 だからリハビリで、時間を稼ぐ必要がある。
 いずれにしても長期戦だ。
 患者も医師も、治療に専念する覚悟がいるんじゃないのか!?」
水野の真剣な表情に圧倒される田辺だった。

バスケ部の部員たちに、亜也の入院が伝えられる。
「なんかお前、選ぶ相手間違えたんじゃないの?
 責任とって、お見舞い行かなきゃなー。」
部の仲間にそう言われ、祐二は・・・。

子供達は夏休みだが、池内家は共稼ぎ。
「ねぇ亜湖。お母さん夕方病院寄ってくるから、遅くなると思うんだけど、
 なるべく早く帰るようにはするけど、
 夕飯の支度、お父さんとやってもらっていい?」
「えぇ!?」
「任せとけ!」と瑞生。
「困るよ。私マミと出かける予定なのに。」
「我慢しろよ。今は家族が一致団結して助け合う時だよ。」瑞生が言う。
「そんな・・・私ばっかり亜也姉のせいで。」
「亜湖!!」
「・・・何よ・・・。やればいいんでしょ。やるわよ。」

病室に、マリ、早希たち6人が見舞いに来てくれた。
その中に、圭子もいた。有名なケーキを持ってきてくれた。

帰り道、遥斗が来るのを期待していた圭子は友達に
「麻生君って団体行動とか嫌いなんじゃないの?」と言われ
「中学の頃はそんなことなかったんだけどなー。
 お兄さんの事故で何か感じが変わっちゃった。」
「お兄さんの事故って?」

「遥斗、去年の夏お兄さんと二人渓流釣りに行ったの。
 途中まで一緒にいたんだけど、
 いつの間にか、お兄さんの姿が見えなくなって・・・。
 次の日、川下で発見されたの。」

両親の泣き叫ぶ姿。
「圭輔・・・なんでだ・・・なんで圭輔なんだ・・・」

公園でガンモを散歩させる亜湖は、学校帰りの遥斗と偶然会う。
「池内、入院したんだって?」ガンモを撫でながら遥斗が言う。
「うん。なんか検査で夏休みいっぱい病院みたい。
 お陰で全部こっちにとばっちり来ちゃう。」
「そんなに悪いの?」
「何の病気か誰も教えてくれないし。
 私あの家であんま信用されてないんだよね。」
「別にそんなことないんじゃないの?」
そう言い、ガンモに「じゃあな。」と言い、自転車に乗る遥斗。
「あの!
 8月7日、お姉ちゃんと朝比奈動物公園に行くの?
 亜也姉カレンダーに印しつけてにやけてたから、
 麻生さんと行くのかなと思って。」
「いや。」遥斗はそう言い自転車を走らせた。
家族に信用されていないという亜湖の孤独さ。
今回のタイトル『二人の孤独』は亜湖と遥斗のことなのかもしれません。

亜也は潮香に家からリストバンドを持ってきてもらった。
祐二にサインしてもらったやつだ。
「先輩との、誕生日の約束、もう無理だよね。」
それを見つめ、亜也がそう言った。

理学療法室をそっと覗く祐二がいた。
リハビリする人々の中から亜也の姿を探す。
田辺の指導の下、リハビリをしていた亜也が祐二の姿に気が付く。
「先輩!来てくれたんですか?」
「・・・うん。どう?調子。」
「はい!大丈夫です。
 あ、すみませんでした、この前。迷惑かけちゃって。」
「ううん。いいよ、そんなの。」

「高校の先輩?」様子を見守っていた水野が聞く。
亜也は二人を祐二に紹介する。
「病室行ったら、ここだって言われて・・・。これ。」
お見舞いの花を渡す祐二。どこか居心地の悪そうな雰囲気だ。
「あの・・私、夏休みの間入院することになっちゃって、
 だから7日は無理です。ごめんなさい。」
「うん。いいって。気にしないで。」

「デートの約束してたの?やるなぁ亜也ちゃん。」田辺が冷やかす。
「でも入院してるんで。」と亜也。すると、
「いいよ。外出しても。」主治医の水野が言う。
「え!?」
「ここでやることだけがリハビリじゃないから。」
「ホントに外出していいんですか?」亜也の笑顔が輝く。
「ああ。」
「ありがとうございます!」
「良かったなぁ。嬉しいだろう?」
田辺に言われた祐二が、複雑な表情を浮かべていたことに、亜也は気付かなかった。

入院中、さまざまな検査を受ける亜也。
両手の掌を表、裏、と一緒に返す検査では、上手く揃わなくなっていた。
厳しいリハビリを、亜也はリストバンドを付けて頑張り続けた。

「デートに行けるとなったら、いきなり張り切ってんなー。」田辺が冷やかす。
「そんなことないですって。」亜也が嬉しそうに笑った。
「やっぱり恋の力はすごいね。
 亜也ちゃん、こうなったら、毎日先輩に来てもらわないと。」
「もう先生!」
亜也はその時、遥斗が自分を見つめている姿に気づく。

=病院の屋上=
「思ったより元気そうじゃん。」
「まあね。検査は嫌いだけど、主治医の水野先生、カッコいいし。」
「なんか、地味な運動してんだな。さっきの。」
「ああ、リハビリ。
 今出来ること頑張るって決めたんだー。」
「・・・お前、何の病気なの?」
「・・・不治の病。
 もう長くないみたい。」真剣な表情で亜也が言う。
遥斗がそんな亜也をじっと見つめる。
「嘘!」亜也が笑う。
「えぇ!?」
「本当は水虫。」
「おい!」
「もちろん嘘。」いたずらっ子のように笑う亜也。
「お前遊んでんだろ!」
「この前のお返しだよ。」亜也はそう言い笑った。
遥斗は亜也の背中を微笑んで見つめていた。
このやり取りは、第2話で検査結果を待つ亜也と偶然会った遥斗の
会話の逆バージョンですね。

院内を歩いているとき、遥斗は看護師が水野を呼び止める声に振り返る。
家に戻った遥斗は、職員名簿から水野を調べ、彼の専門分野を知る。
そして、医学大辞典で『脊髄小脳変性症』を調べ、それが亜也の病気だと知る。
「有効な治療法、治療薬はない」と書かれている。
「不治の病・・・」と言った亜也の表情を思い出した。

遥斗が学校で生物部の活動をしていると、バスケ部の祐二たちの会話が耳に入る。
「じゃあ結局今日の池内とのデートは却下したわけ?」
「どうしようかと思ってさー。」と祐二。
「俺だったら止めておくけどね。
 せっかくの誕生日の日に、暗い気分になりたくねーじゃん?
 電話して断っちゃえよ。」
「だよな・・・。」

その頃、亜也は潮香に頼んでおいた、祐二へのプレゼント、
綺麗に包装されたシューズケースとソックスを受け取っていた。
「ちゃんと確認した?」
「あれほど何度も言われましたから。」
「よかったぁ!ありがとう。」
ワンピースに着替えた亜也が嬉しそうに笑う。
潮香は心配し、一緒に途中まで付いていこうかと聞くが
「お母さん、親つきのデートだなんて聞いたことない。
 先輩もビビっちゃうし。」
「・・・わかった。じゃ、気をつけて。楽しんできてね。」
潮香は亜也を送り出す。

亜也がバスに乗り込んだ頃、遥斗が亜也の病室を訪ねていた。
空っぽの病室。
「彼女、さっきおしゃれして出かけたぞ。」
田辺が教えてくれた。
そこへ看護師がやってきて、亜也宛に河本という人から電話が入っていると
田辺に言う。
遥斗にはそれがデートのキャンセルの電話だとわかり、亜也の下へと
走り出した。

突然の雨。
亜也は動物園内の待ち合わせの場所で、プレゼントを雨に濡らさないよう
抱えながら祐二を待っていた。

降り出した雨にも構わず、走る続ける遥斗。

亜也は走ってきた人とぶつかり、持っていたプレゼントを落としてしまう。
慌てて拾い上げ、しっかりと抱え込む亜也。
後ろから、誰かが傘を差してくれた。遥斗だった。
「麻生君・・・」
「何雨の中突っ立ってんだよ。
 風邪引いて入院伸びても知らねーからな。」
時分は濡れながら傘を亜也のほうに差す遥斗。
「・・・」
「あいつ、来ないよ。」
「え?」
「急な用事が入ったみたいで、さっき病院に電話が来てた。」
「麻生君、それ言いに来てくれたの?」
「・・・お前、ペンギン見たか?」
「えぇ!?」
「さっきいただろ?知ってる?皇帝ペンギンって、子育てする夫婦は、
 絶対に浮気しないんだって。
 オスが卵を温めている間、メスはエサを探しに出るんだけど、
 その間、どんなに腹減っても、吹雪にさらされても、
 ずーっと卵守って待ってるんだよ。
 動物の親ってすげーよな。」
「・・・ありがとう。来てくれて。」
「いや、別に。」
「私さ、本当は先輩来ないかもって、どっかで思ってた。
 来ない方がいいって。」
「何言ってんだよ。」
「私ねー、歩けなくなっちゃうんだって。
 言葉も、だんだん発音がはっきりしなくなって。
 何言ってるかわかんなくなっちゃうんだって。
 最後には寝たきりになって、しゃべることも食べることも
 できなくなっちゃうんだって。
 麻生君前に言ったよね。
 人間だけが欲張って余分に生きようとするって。
 やっぱり欲張りかな。
 無理に生きようとするのは・・・間違ってるかな。」
涙をこぼしながら亜也が問いかける。
「過去に戻りたい。
 タイムマシン作って過去に戻りたいよ。」
そう言うと亜也は泣き崩れた。
遥斗には、亜也にかける言葉がみつからず、
ただ、少しでも雨に濡れないようにと傘を差すことしか出来なかった。

「タイムマシンを作って過去に戻りたい

 こんな病気でなかったら
 恋だって出来るでしょうに
 誰かにすがりつきたくてたまらないのです」

一部公式HPあらすじを引用させていただきました。

このドラマは、亜也さんが残した言葉に物語を肉付けしてあるのですね。
実際は遥斗という設定はなかったそうですが、
彼の存在が亜也さんの気持ちをよりはっきりと、視聴者に伝えてくれます。

亜也は両親、医者以外の人間に初めて自分の気持ちを吐き出しました。
今まで人間に失望していた遥斗は、亜也のこの言葉をどう受け止めるのでしょう。

遥斗の兄は、事故死だったのですね。
存命ということにこだわっていた遥斗なので、てっきり、植物状態なのかと
思っていました。
父親の「なんで圭輔なんだ・・・」という言葉。
それを遥斗は、「遥斗だったら良かったのに。」と受け取ってしまったのかも
しれません。

亜湖にはまだ姉の病気のことを説明していないのですね。
前回も思いましたが、早く亜湖にも事実を教えてあげてほしいです。
でなければ、『家族一致団結』にはなれないですね。

バスケ部の先輩、河本は・・・。
若い彼が戸惑うのも仕方がないかもしれないけれど、
せめて誕生日の約束だけでも守ってあげてほしかった。

自分は濡れても構わないからと、亜也に傘を差してあげる遥斗の姿が
印象的でした。

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